天遊園老公あて書簡

黄s.jpg「天遊園老公」富岡敬明に宛てた梧竹の書簡、徳川家康の印を入手して、暫く無音に過した従兄の敬明にその印影を送ったものである。敬明・梧竹のこころの交流が書面にあふれている。

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黄花白酒の候 御老躰御障りも無御無事にて奉遠賀候 弟も無事ニ御座候 此の印影二葉奉呈仕候 御一覧被下度候 一葉は市河ノ方ニ届被下度候 先つハ御見舞迄 匆々 頓首 十一月一日 将軍閣拝 天遊園老公 机下 

封筒の消印は明治三十年十一月一日、敬明は山梨の里垣村に隠退していた。 

黄菊が咲き濁り酒の時候となりましたが、ご老体にはお障りもなくご無事で、遠方からおよろこび申上げます。私も無事にしております。この印影二枚を進呈いたします。ご一覧いただきたく存じます。一枚は市河(市川大門の渡邊青州と思われる)の方にお届け下されたく存じます。

下図がこの書簡のテーマ、梧竹が東京で9月に手に入れた徳川家康の印影である。うれしいことに封筒も保存されている。

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明治三十年丁酉歳九月 於旧江戸 獲旧将軍徳川家康印一 縦二寸二分 横一寸九分 
竪一寸八分 重十一両四銭 本朝当一百十四目 其文篆 家康之印四字 中林隆経      梧竹堂蔵

梧竹の署名は「将軍閣」、敬明の名は「天遊園老公」。取り澄まして本名を書かずに、印にちなみ、屋敷の林泉に合わせて即興の戯名を記した。家康印の状態を細かくのべたのは、市河の雅友をふくめて、3人それぞれに篆刻の素養をもつのによるので、単なる見せたがり趣味ではない。ただ無邪気にうれしくて、ちょいとはしゃいでみせたのだ。

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注1 この書簡3点セットも小城の中林梧竹記念館で展観されます。
注2 河村秀明「小説富岡敬明」の好著があります(昭和54年甲陽書房発刊)。

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