2008年2月23日

駒井鵞静先生

先生に電話をするときには、いつも、ちょっとだけ覚悟が必要だった。雄山閣に勤めていた頃だ。

最初は『現代書』(宇野雪村・比田井南谷監修)という本に作品掲載の依頼をした時だった。

ソロモンs.jpg

 この本は全三巻で、ほかにもたくさんの先生から作品写真をお借りした。ほかの先生方は素直に郵送してくださったのに、駒井先生だけは違っていた。

「いつ取りにきますか?」

行くのかー。

まさかそんなに長い時間、先生のお宅に滞在するとは夢にも思わず、私は会社を後にした。

うかがってすぐ出してくださったのはこの作品写真とほかに数点。どれも大判の紙焼きで、モノクロだったが、とてもよい写真だった。この作品が一番印象に残った。聖書のことばだということは、後で知った。

先生のお話は情熱的で、とてもおもしろかった。いつの間にか引き込まれてしまい、時のたつのを忘れた。話題は果てしなく多方面にわたり、聞いている私までうれしくなるほどだった。

あれ、今何時だろう。時計を見たら1時間経過。早く帰らなきゃと思いつつ、ついつい聞きほれて3時間ほど経ったころ、ようやく帰れそうな気配が・・・。すかさずおいとまを告げた。

帰り道、あーあ、と思ったけれど、なんだか力が湧いて来て、うきうきした気分だったこともたしかだ。

その後も、『空海の書論と作品』『書の名跡めぐり』など、たくさんの本を書いていただいた。ずいぶん宣伝もしてくださった。 

天来書院を作ってからは、お手本やビデオ中心に発行したので、先生とお目にかかる機会はなくなった。ご病気だということを知ったときには、かなり重体だったので、お見舞いにも行かずじまいだった。

心のこもったご葬儀は、とても感動的だった。

一昨年、渡部大語先生から作品集発行の依頼をいただいたとき、昔の思い出がよみがえったのだった。

合鍵s.jpg

駒井先生の作品には不思議な浮遊感がある。力強さと同時に、地面に縛り付けられていない明るさがある。

この作品を見て、自殺を思いとどまった青年がいたという話を聞いた。

私は建てるように書いたs.jpg

現代書における「ことば」の意味を、考えてみたいと思っている。

 

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