南谷はアメリカ人に書芸術の本当の姿を知らせるべく、中国語の書道史を書くことを思い立ちました。本書は英訳する前段階として、日本語で書かれた中国書道史です。英訳を前提としているので、専門用語ではなく平易な日常語が用いられています。図版を示しつつ、その芸術性を中心にわかりやすく解説した、役に立つ事典。歴代の批評家の説を取り上げて、客観的に説明しています。固有名詞はすべてルビ付き。
1969年、南谷は1944年以来休止していた書学院の出版事業を再開し、比田井天来の著書や日中の書の古典名品を刊行しますが、その最初の書籍がこの「天来習作帖」です。名著の誉れ高い臨書集ですが、肉筆はすでになく、粗悪な印刷物しか残されていなかったので、製版印刷の技術を駆使し、たいへんな苦労をして発行にこぎつけました。壮年の大著『学書筌蹄』よりも自由でのびのびとした臨書です。
集字といえば、王羲之の筆跡を集めた「集王聖教序」が有名ですが、比田井天来は一時期、王羲之の書を集めて般若心経や教育勅語を作ることに熱中しました。南谷もこれに習い、風信帖などの空海の真跡から文字を集めて般若心経を作りました。気脈が貫通した名品と絶賛され、版を重ねています。折帖なので臨書しやすく、誰にでも愛されるロングセラー。
折帖を写経の形式に編集しました。写経といえば写経体と決まっていますが、このお手本なら一段とグレードアップした写経ができます。展示会などで人気の商品です。
南谷は常に古典の中から新たな表現のヒントを発見していました。本書はその一つを広く紹介するものです。戦国時代から漢時代にかけて、柔らかい粘土にヘラなどで文字を書き、焼き上げたものがたくさん作られました。湿った土の表面に自由に刀を走らせ、書の筆意とも違う、一種の刀 意とでも称すべきものが表れています。創作のヒントに最適です。