筆
筆墨硯紙
筆墨硯紙

基礎講座

硯の特徴

 

固形墨を磨って水に溶かし、墨液を作るのが硯です。材質はほとんどが石で、現在の硯のほとんどが中国産です。

どんな石でも硯にできるわけではありません。逆に硯の材料となる石は、ごく限られた場所からしか採取できません。中国の端渓(たんけい)がもっとも有名で、美しい色彩と紋様のある石が多く、昔から皇帝をはじめとする文人に愛されてきました。

 

端渓老坑

上の写真は、「青栁派の硯展」(2018年2月20〜3月5日・蔵前MIRROR(ミラー)シエロイリオ3F EASTギャラリー)で展示された、青栁貴史氏製作の硯です。赤紫の美しい色彩の中に、端渓老坑の特徴である紋様を見ることができます。

 

細く白い線が氷裂紋(ひょうれつもん)、青紫の小さい斑点が青花(せいか)、白く茫洋とした部分が蕉葉白(しょうようはく)、青い部分が天青(てんせい)です。左端に施された雲紋は、石の美しさをさらに際立たせ、端正な姿を作り出しています。

 

石のほかに、陶器や瓦なども硯の材料になります。

日本の硯としては宮城県の雄勝石や山口県の赤間石が有名です。

 

硯石の表面はとても滑らかです。しかし、触ってみると、一面に微細な突起があることがわかります。これは「鋒鋩(ほうぼう)」と呼ばれ、鋒鋩の細かさや分量によって、作られる墨液の量や質が異なります。

鋒鋩とは何でしょう?

 

鋒鋩

 

上は硯石の表面に光をあて、顕微鏡で見たところです。実は硯石は一種類の石からできているのではなく、石英や長石などの硬度の高い鉱物粒子が含まれています。この鉱物粒子が多く、細かいほど、良質の墨液を早く作ることができるのです。

 

硯の鋒鋩

 

マイクロスコープを使って、さらに拡大してみます。

左上は印材、表面は滑らかです。右上は多くの人に使われている「羅紋」で、凹凸はありますが、粗いことがわかります。左下は端渓麻子坑でかなり細かくなり、右下の端渓老坑は細かく、しっかりとした鋒鋩が一面に見られます。

 

坑仔岩を拡大

 

さらに拡大します。走査型電子顕微鏡を使っているので、モノクロですが、さまざまな形状の鉱物粒子が複雑に入り乱れていることがわかります。

 

「熱釜塗蝋(ねっぷとろう)」ということばがありますが、良い硯を使って墨を磨ると、熱した鉄板に蝋を当てるように、まるで墨が硯に吸い付くように、墨がおりていきます。

 

今は液体墨が人気で、硯で墨を磨る人が少なくなりました。でも、日常生活の中で使うなら、墨を磨るのはそれほど苦痛ではないはずです。

硯は一生モノ。ちょっと奮発して上等の硯を買い、文人たちのように、石の美しさと磨り味を楽しんではいかがでしょう。

 

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