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筆墨硯紙
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基礎講座

sumi墨の特徴

比田井天来 墨

比田井天来考案の「古香」

 

書道で使う「墨」の主原料は、煤(すす)と膠(にかわ)です。菜種油などの植物油を燃やして採った煤に、とかした膠を混ぜて練り合わせ、香料を入れ、木型に入れて乾燥させたものが、現在流通している一般的な固形墨(油煙墨)です。

また、松ヤニを燃やした煤で作った「松煙墨」もあります。

 

動画「墨のできるまで」はこちら

 

現在見ることのできる最古の固形墨は、中国湖北省の睡虎地の秦墓(紀元前217年)から出土したもので、高さ1.5センチほどと言われています。(『舟形墨の話』参照)

さらにこれを千年も遡る殷墟から、墨で書かれた筆跡が発見され、今も鮮やかに残っているのですから、墨の持つ能力の優秀さには驚かされます。

 

殷墟から発見された墨書(『書の旅55』より)

 

墨の色は黒。でも、水で薄めると、わずかですが青系から茶系、赤系までの色彩が生まれます。濃く磨った墨を水で薄め、美しいにじみを楽しむ「淡墨作品」が人気ですが、そんなニーズに応え、メーカーでも美しい墨色の研究に余念がありません。

「淡墨の作り方と宿墨」はこちら。筆墨硯紙販売サイトはこちら

 

墨は、触っても汚れませんが、一旦水に溶けると、触れるものすべてを黒く染めあげます。携帯に便利で、濃く磨って目に鮮やかな文字を書いたり、お悔やみの時は薄めて悲しい気持ちをあらわしたり、わざとにじませてみたり、多彩な表情を楽しむことができます。

 

また、中国明代の墨が珍重されることからわかるように、質のよい墨は長い時代を超えて生き残り、新しい墨とは別の力をまとっていきます。膠が枯れて消炭のようになっても、膠を磨り混ぜれば蘇りますし、長く使って小さくなっても、別の墨を継いで最後まで使うこともできます。墨の継ぎ方はこちら

 

今に伝えられる書の古典は、ほとんどが小さい字で書かれていますが、近現代になると、大きなサイズの作品を書くことが多くなりました。

そこで考えられたのが液体墨です。膠を使ったものと、合成糊剤を使ったものがあります。膠を使ったものは、書き心地はよいのですが、表具の時にトラブルが出ることがあります。合成糊剤を使ったものは、使った後そのままにしておくと筆を痛めますので、よく洗うようにしましょう。

 

液体墨はそのまま使えて便利ですが、作られてから年月が浅いため、書いたものがどれくらい残るかわかりません。また、展覧会などで、どうしても似たような印象になるのは否めません。後に残したい大切な作品は、過去の大家がそうしたように良質の固形墨を磨り、その墨液が最良の状態を保っている時に書く。そんな心の余裕を持ちたいものです。