書道で使われる筆はどのように作られるのでしょう。
江戸筆の特徴は、一人の職人が数多くの工程を一貫して仕上げるところにあります。
鳳竹堂の佐久間鳳翔さん(板橋区無形文化財)の筆づくりをご紹介しましょう。
YouTubeの動画はこちら。
まずは毛の下ごしらえです。毛がついた皮ごと煮沸し、毛を抜くところから始めます。
右はイタチ(コリンスキー)の原毛。これを煮沸して毛を抜いたのが左です。
これに籾殻(もみがら)の灰をまぶして火熨斗をあて、鹿の皮に包んでもみます。毛の脂肪分や汚れを取り去るためです。
櫛を使い、綿毛を取り除きます。10分ほどの作業でこんなにたくさんの綿毛が出ました。
「寸木」と呼ばれる定規をあて、サイズによって分類します。貴重な毛を合理的に使うためです。
次に、「手金」と「手板」を使ってリズミカルに毛先をそろえていきます。
小刀を使い、逆毛や先のない毛を取り去ります。先が擦り切れた毛は、筆の大事な部分には使えないからです。
時間をかけて、丁寧によい毛を選別します。
厳選した毛をまぜて「平目」を作ります。
兼毫筆を作るための平目が揃いました。
右端は筆の尖端になるイタチ(コリンスキー)で、その左は尖端の滑らかさを出すための牛耳毛。続く茶色の馬と黒馬で、根本をしっかりさせます。一番左は「さらい出し」という先のない毛で、穂に強度をつけます。
尖端になる毛から順に重ねていきます。
重ね終わったら、毛の根元を切り捨てます。
重ね終わったところ。四種類の毛が層になっています。
筆づくりはここからが勝負。かたよらないように、何度も何度も、まんべんなく混ぜ合わせます。
混ぜ終わったら、一本分の大きさに分け、「コマ」と呼ばれる短い筒に通して太さを一定にします。
コマに通した状態。
ここに、上毛を巻いていきます。
穂首が完成しました。このまま乾燥させます。
穂首の根本を糸で締め、焼きごてをあてて固めます。
軸の準備です。小口を小刀でえぐります。
軸の内側に接着剤をつけ、穂首を差し込んで完成です。
固め筆の場合は、ふのりに浸して、糸を巻き付け、回転させながら余分なふのりを落とします。
一本の筆を作るために、こんなに複雑な過程があるんですね。
ちなみに、中国ではどうでしょう。
たくさんの女性がいっしょに作業しています。日本よりずっとたくさんの筆が必要とされているのでしょう。
尖端がクシになった板で、練り混ぜまで行われていました。これは、「写巻」のような、ウサギの毛と羊毛を使った小筆です。
書の作品を書くために、絶対に必要な「筆」。今では原料も少なくなり、日本の職人も激減してしまいました。
よい毛を選びながら、毛の状態を確かめながらの作業は、機械ではとても無理。
若い人の中から、優れた職人が生まれることを願ってやみません。