かつては、日本の全国各地で筆作りが行われてきました。上の図の◯印が過去の有名生産地です。
しかし、生産地は次第に絞られ、現在の主要な生産地は4つの地方となりました。
中でも最も盛んなのは広島県安芸郡熊野町(熊野筆)です。四方を海抜500メートル前後の山々に囲まれた高原盆地で、国内シェアの8割がここで生産されていると言われています。
仿古堂や久保田號、一休園などの老舗が軒を連ね、町立「筆の里工房」では筆にまつわるイベントが開催されています。
ほかに規模が大きいのは、同県の豊田郡川尻町(川尻筆)と、愛知県豊橋市(豊橋筆)です。
また、職人の数は多くありませんが、京都の「京筆」、奈良の「奈良筆」、兵庫の「有馬筆」、東京の「江戸筆」などがあります。
2011年の書道テレビでは、江戸筆の職人、佐久間末男さん(板橋区無形文化財)をお呼びして、筆づくりの実演をしていただきました。
佐久間さんが営む鳳竹堂は、原料の選定から始まって、多くの工程を一貫して仕上げ、販売までも行っている、良心的で貴重なお店です。江戸筆の作りかたはこちら。
産地によって、筆は微妙に違っているように思われます。半紙臨書用に開発された、2000円代で硬めの筆をご紹介しましょう。
新法古(小) 熊野筆 仿古堂
学院法(特小) 豊橋筆 仿古堂(もと精華堂)
顔氏 熊野筆 一休園
蘭香 江戸筆 鳳竹堂
また、以上の職人は「苧締め(糸締め)」という方法を用いていますが、古くは「紙巻き(巻筆)」という方法がとられていました。滋賀県高島郡安曇川町にある「攀桂堂(雲平筆)」は、父子相伝で、この伝統を今に伝えています。
攀桂堂は創業400年、雀頭筆(小)は紙巻き筆で、写経などの小楷に適しています。
中国では、筆はもっと大きな規模で大量生産されています。
代表的な産地は「湖筆」で有名な浙江省湖州市(上海工芸・善璉湖筆)、浙江省杭州市(邵芝巌)、江蘇省(蘇州湖筆)で、現在、日本に輸入される筆の多くがこの三地区のものです。
上は2000年に取材した時の写真です。日本と異なり、中国では女性が中心となり、多人数での作業が行われていました。
中国の筆については、早川忠文さんのブログ「文房四宝を楽しむ」をご覧ください。