現在作られている筆のほとんどは「水筆(すいひつ)」と呼ばれ、穂首の根本を固めて軸に固定したものです。
でも、江戸時代に主流だったのは「巻筆(まきふで)」。
巻筆は「有芯筆」とも呼ばれ、芯になる毛を和紙で巻き、さらに上毛を掛ける方法です。
現在は、滋賀県の藤野雲平父子だけがこの製法を伝えています。
巻筆にはいろいろな種類があります。
まずは「雀頭筆(じゃくとうひつ)」。
正倉院に残されている天平時代の筆は全部で18本。
大仏開眼に使った一本の大筆を除くと、残りはすべて「雀頭筆」です。
穂が短く、途中から急に細くなる特殊な形状は、「巻筆」の技法によるもの。
まずは、通常の方法で毛をあわせて練り混ぜをし、穂首を作ります。
通常の方法はこちら。
そして、ここからが巻筆の特別な作りかたです。
穂首は三箇所を麻糸で縛ります。本当に細かい作業です。
続いて、穂首のねもとに和紙を巻きます。どんどん巻いて太くします。そして、穂先をわずかに残して上毛を巻きます。
ねもとに麻糸を巻き、麻糸の下に飛び出た毛をカットして、軸に据えます。
この作りかたを見るとわかるように、穂は途中まで紙が巻かれているので、雀頭筆の穂先は全部おろすことはできません。
先だけに墨をつけて、小さい字を書くための筆なのです。
さらに手間がかかるのが、「籠巻筆(籐巻筆)」と呼ばれる筆です。
これは、比田井天来が雲平さんに注文した筆を復元したもの。
穂首の根本に美しい金網が巻いてあります。いったいどうやって作ったのでしょう?
使うのはこの三種類の毛です。黒天尾(黒馬のしっぽ)、鹿、そして山馬。
(上は2000年当時で、現在は黒天尾と鹿が使われています。)
通常の方法で穂首を完成させ、ねもとを麻糸で縛ります。竹軸に切り込みを入れて広げ、そこに穂首を差し込みます。
穂を固定するために、和紙を巻きます(上の筆)。
もう一度毛を巻き、抜けないように麻糸でくくります(下の筆)。
これをさらに和紙で巻きます。
ねもと五分の一ほどのところに針金を巻きつけ、手前に向けて編んでいきます。
さらに和紙を巻き、
籐を巻いて完成です。
なんという手間のかかる筆でしょう!
上の二点は動画でご覧いただけます。
動画タイトルは「筆を変えると作品も変わる?」。石飛博光先生がいろんな筆を使ってくださる番組です。
雀頭筆を作ってくださるのは雲平さんのご子息、藤野純一さん。1時間8分あたりから始まります。
タイトルは「筆を極める 廻腕法と俯仰法・巻筆の作り方」。
十五世雲平さん(純一さんのお父様)が籐巻筆を作ってくださいます。2分あたりから始まります。
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