本日は、こだわりの佃煮レシピをお届けします。

 

どうです? この風格!

それぞれの持ち味を活かし、ふっくらと煮上がったつややかな姿!

風格のある、端正な趣は、まさにドラマだと言っていい!

 

といささか大げさになりましたが、これこそ、あの、御老公こと、北川博邦先生が丹精込めた佃煮なのです。

 

その作り方は、甘みをまったく加えない、どころか、お酒さえも加えない。

調味料はお醤油だけ、といういさぎよさ!

それでは超辛いかと思いきや、一口食べたらもう止まらない美味しさです。(お酒も止まらない)

素材のうまみを活かすための工夫、特に、煮ていく順番にご注目ください。

 

折帖に書かれた格調高い筆跡。

文章も御老公ならではのかっこいい江戸前です(洒脱!)。

できるだけ大きく掲載しましたので、まずはこちらをお楽しみください。

先生独特のウィットがあちこちに隠れています。

ただ、このブログは海外の方も翻訳でお読みいただいているので、口語体を追加しました。

御老公もしぶしぶではありましたが、了解してくださいました。

 

では、はじまりはじまり。

 

 

定本 蓬心齋佃煮法(ほうしんさい つくだにほう)

 

1佃煮の歴史

佃煮というものは、いつ、どこで始まったのか、詳しく知ることはできない。

残った小魚や貝、蝦(エビ)等を塩で煮しめて保存食にしたまでのもので、全国津々浦々どこにでもあっただろう。

そのようなものなので、とても人の口にあうような味ではない。

だから、江戸時代の評判記や番附にも見えない。

狂歌、川柳、狂詩にも詠まれたことがない。

しかし幕末の嘉永安政の頃に、これらを醤油で煮しめることを思いついた人があった。

これでやや人の口に合うような味になったので、さらに様々の工夫をして、ようやく世に知られるようになった。

 

さて、それでは何という名をつければよいかということになり、思いついたのが「佃煮」である。

江戸前の魚介といえば佃島の漁師が採ったものということで、この名をつけたのである。

佃島が発祥の地というわけではない。

そんなわけで、今、佃島に行ってみると、佃煮屋が三軒あって、それぞれ「元祖」「本家」「総本家」と名乗っているのは実に笑ってしまう。

 

2調味料は醤油のみ

この佃煮が少し広まったのだが、世の中にはただ「甜(あま)い」を「うまい」と思う人が多いので、味醂(みりん)や砂糖などを加え、さらには照りをつけるのだなどと言って、水飴を加える者が出てくるにいたり、この頃はほとんどいわゆる甘露煮とかわらないものになってしまった。

これでは佃煮の外道というべきで

 

このようなものは食えたもんじゃない。

ゆえに自分で煮てみようとして試みること多年。

いささかそれらしいものができたので、以下にそれを書いてみよう。

 

吾が流儀による佃煮は、ただ醤油で煮しめるだけ。

他の調味料は一切加えない。

隠し味などと言って酒を少量加える者もあるが、酒を加えると必ず甘くなるので、これは厳禁である。

 

3最初に蝦を煮る

まず初めに蝦(エビ)を煮る。

芝蝦の小さめなものがよろしい。

その他、川蝦、甘蝦、牡丹蝦などたくさんあるけれども、駿河湾の桜海老、富山の白海老はことによろしい。

 

蝦を煮るには留意すべきことがある。

 

桜蝦や白蝦等の小さなものはそのまま煮てもよい。

やや大きめのものは必ずヒゲを切り落とさなくてはいけない。

そうしないと、煮上がった後、必ずヒゲがからまって首がもげることがしばしばあるからだ。

 

4生姜を加える

醤油のほかには生姜を少々加える。

これには二つの方法がある。

一つは生姜をおろしてその絞り汁を加える。

一つは生姜を薄片に切っていっしょに煮る。

当初は搾り汁を加えるだけだったが、生姜の味噌漬け、糠漬けから思いついて、薄片をいっしょに煮ることにした。

こうして煮た生姜の薄片は、酒のつまみとしてちとおつな味わいがある。

 

蝦は四〜五分ほど煮立てる。

 

その間に幾度となくアクをすくい取る。

煮立ち終われば火を止め、そのまま二〜三時間ほど煮汁につけておく。

こうして醤油の味を十分に浸み込ませるのである。

 

残った煮汁は次に魚貝等を煮るのに用いる。

この煮汁は蝦の出汁(だし)が出ているので、次に煮る魚貝にその味を加えることになる。

故に、吾が流儀では、蝦を最初に煮るのである。

煮汁の残りが少なければ、醤油を継ぎ足すまでのこと。

 

4次に帆立とシラスを煮る

次に煮るのは貝でもシラス等の小魚でもよい。

貝はアサリが定番であるが、近頃売っているアサリのむき身はほとんど中国産ばかりである。(平成30年当時)

私は神州清潔の民であるから、こんな支那種はまっぴらごめんだ。

 

そこで代りに小粒の帆立を煮ることにした。

煮方は蝦と変わるところはない。

ただし、煮る前に、一粒ずつ竹串で柱の真ん中を刺して孔をあける。

こうすると煮汁が中までよくしみこむのである。

吾が流儀の佃煮は売り物にするわけではないので、このような手間暇がかかっても問題はない。

これも火を止めてから二〜三時間はそのままつけておくのがよい。

 

シラスを煮るのも前の二つと変わるところはない。

ただし生姜の使い方に一工夫がある。

蝦や貝等といっしょに煮る生姜の薄片を、幅一ミリ弱、長さ三〜四ミリに細かく刻み、これを加えるのである。

生姜の量は好みに随って多くても少なくても勝手ではあるが、

 

生姜が多いと生姜の味が勝ちすぎてシラスの風味が減ってしまう。

これは最初からいっしょに煮てはよくない。

生姜は細片なので煮立てる時に浮き上がり、アクといっしょにすくい取り捨てることになる。

だから、火を止める少し前に加えるのがよい。

以上、蓬心齋佃煮法第一類。

 

5鮪の角煮

鮪の角煮は、赤身の冊を買ってきて、しかるべき大きさに切って煮る。

ぶつ切りをさらに小さく切って煮るのもよい。

ただし、ぶつ切りをさらに切ると、三角煮、五角煮などとなって見た目がよろしくない。

とはいえ、味はそう変わるものではない。

鮪の角煮は赤身に限る。

トロは不可である。

 

鮪の角煮の煮汁は、鮪の角煮を煮るだけにすべし。

蝦貝等を煮るために用いるのはよろしくない。

生姜の用法は蝦貝等と同じ。

以上、蓬心齋佃煮法第二類、

 

6穴子

穴子は佃煮の中でも別の風味がある。

煮方は前の二者と変わるところはないが、煮汁の用法が大いに異なる。

この煮汁は牛蒡、椎茸を煮るのにもっともよい。

牛蒡はただ醤油で煮しめるだけでは何の愛想もなく、面白くもおかしくもないものだけれど、穴子の煮汁を用いて煮れば、格別の風味がある。

椎茸もまた同じ。

穴子は脂がかなり強いので、味に癖がある。

それなので、蝦や貝等を煮る時は穴子の煮汁を混ぜてはいけない。

 

穴子の煮汁は穴子、牛蒡、椎茸に限るべし。

以上、蓬心齋佃煮法第三類。

 

まとめ

私が佃煮を煮るのは酒呑仲間と共に酒の肴にするためである。

右のほかにも牡蠣、昆布等を煮て、それぞれ仲間の好評を得たものは、今はめんどくさいのでここに記さない。

なお、この他にも酒の肴として蕗味噌、葉山葵漬け、胡瓜もみ等特別のものもあるが、今は捨て置く。

 

平成三十年冬初 北川▢(▢は花押)

 

 

いかがでしたか?

「見えない字まで読んでしまう」天才、御老公は、実はこだわりの料理人だったのです!

中でも絶賛する人が多いのは「牛蒡」。

美味しさのわけは穴子の煮汁にあったのです!

ひらめきと超絶センス、恐るべし。

 

最後にある「葉わさび漬け」が、私の大好物。

自分で作っても、なぜか先生みたいに美味しくできない・・・・・。

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