文字の誕生は壮大なロマンに溢れています。
森羅万象のこだまを宿し、生き生きと語りかける、生まれたばかりの文字。
そんな古代の漢字に魅了され、新たな表現を追い続けたのが加藤光峰先生でした。
団体に属さず、孤高の芸術家としての生涯を貫いた先生が、心血を注いだ珠玉の作品をまとめた『墨線ー加藤光峰遺墨集』が完成しました。
まずご紹介したいのは甲骨文の臨書です。
2019年、先生が他界される2ヶ月前に開催された加藤光峰展に展示されました。
写実的で美しい臨書。甲骨文に対する先生の深い愛情がうかがわれます。
では、いよいよ大作に移ります。
蛇身黄帝世 四目史官 省禽獣足跡 創作文字
「蛇身の黄帝の世に、四つ目の史官(倉頡)が、禽獣の足跡を見て文字を作った」という文字創造の伝説です。
うごめく蛇の姿と大きな目。濃密な古代の空気。
”なんと豊かな想像(イメージ)と創造活動(クリエート)か!”(遺墨集より)
古事記シリーズから「海彦 山彦」。
兄は魚貝を漁(すなど)り、弟は雉鹿を獣(かり)す。
象形文字の動物たちの生き生きとした存在感が私たちの目を奪います。
「臨古啓新」
”古きものにこそ新たな展開のヒントが隠れていると確信する。”(遺墨集より)
インパクトあふれる鳥の象形文字。
左下に書かれたタイトルは "The reigning bird in the heavens"
作品集の製作を担当なさった亀甲会の釜石十軒先生にお聞きしたところ、
「『天空を支配する鳥』なんて勝手に解釈しています」というお返事をいただきました。
名訳だ!
叙情的で洗練された趣を持った「刀筆萬化」。
光に満ちた明るい空間と軽やかな動きがとても新鮮です。
「地の塩、世の光」
英語の部分には、青山学院のスクールモットーである新約聖書「マタイによる福音書 5章13〜16節」が書かれています。
青山学院中等部講堂の扁額です。
「龍虎」 27cm✕25cmの小品です。
何という躍動感!
よく書かれるテーマなのに、まったく新しいイメージが生まれています。
最後に臨書が掲載されています。
孤高の道を歩んだ加藤光峰先生が、ただ一人、師と仰ぎ、尊敬したのは桑原翠邦先生でした。
2008年に発行された作品集『墨線 加藤光峰の世界』で、桑原翠邦先生について、次のように書かれています。
”「桑原翠邦遺業展」を拝見し私の脳裏を一瞬にして埋め尽くしたものは、師・翠邦の生涯を賭けて書に対峙した「理念と思索」の姿勢、さらに変革変貌の多かった現実社会との闘いの中での「求道と伝導」の生涯・・・。
常に古典に立脚して、線質に独自の薫りと肌合いを求め、格調高き書を制作し続けた精神力。”
翠邦先生が逝去された翌年発表されたのが、上の「臨令銘」の臨書です。
天地3m60cmで、藍色の印泥が使われています。
続いて、縦35mm、横1333mmと726mmの巻子に認められた、圧巻の臨書集「文字の歴史」。
彩陶土器と陶器刻画から始まり、甲骨文・金文・隷書・行書・楷書の臨書が続きます。
上は空海の「益田池碑」。古典に魅入られ、心から楽しんで臨書していらっしゃる様子が目に浮かびます。
「甲骨 金文 MANDARA」
”『甲骨 金文 MANDALA』は私のライフワーク のひとつです。1983年ロンドン個展・1987 年台北個展と節目節目に制作発表してきました。今 回は大作としてまとめ、古代文字とそれに関した多 くの先達・諸師をしのび「加藤光峰の鎮魂歌」とし て捧げたい。
今回の新作揮毫も〝古代文字によって生かされて いる自分〟を再認識する制作の日々でした。”(遺墨集より)
巻末の略歴の中に「国境なき医師団」キャペーンポスター制作協力(2001年)とありました。
これがそのポスターです。
中央の子供の姿のインパクトはただものではありません。
筆と墨の持つ表現力を、もう一度考えてみる必要があるかもしれないと思いました。
『墨線ー加藤光峰遺墨集』の詳細およびご注文はこちら。
定価5800円+税のところ、3月5日までのご注文に限り、特価5000円+税となります。