久しぶりの投稿になりました。
心配してお電話いただいたお客様、ありがとうございました。皆様にもご心配をおかけしました。私の方は元気です。引き続き宜しくお願い致します。

さて、写真は輪島塗を代表する沈金作家の作品です。紫陽花を描いたかなり大きな屏風です。紫陽花の花弁から葉や茎を全て点彫り(のみ等で漆を塗った表面を点状に削り金や他の金属粉を埋める)で再現しています。

花弁は紫、薄紫、水色、青、ピンクと5色類の色(金やパール粉と呼ばれる金属粉)を使い分けています。葉が重なり合い幾つもの階層を表現することで雰囲気のある奥行きが生まれ空間を演出しています。漆黒の屏風の中で絵の部分だけが立体的に浮き出て見えるのが不思議です。これこそ神業。自分がイメージした絵を輪島塗で描いています。

作品は約40年前に作られたものです。絵に古さを感じさせないのは、作家の絵のセンスなのだと思います。また、金やパール粉は錆にも強く殆ど劣化しない為、漆に顔料を合わせた蒔絵のように最初は鮮やかでも顔料部分が劣化し変色してしまうこともありません。また、細かい点でも彫りが深くしっかりしている為、金属粉が剥がれることもありません。

そういう意味では、この沈金の作品は蒔絵と比べて耐久性があり、出来上がった当時の鮮やかさを保持出来る。作家は後世に残せるよう考えて素材を開発したのだと思います。

この作家には何人もの弟子がいました。たとえ彫る技術は習得出来たとしても、師のような絵の才能までは引き継ぐことは出来ません。優れた技術もそれを表現する絵やデザインがあって評価される。そういう意味では技術とデザインは両輪といえます。彼のような沈金師は残念乍らこの後は出てこないかも知れませんね。