筆意って何?

2017年4月6日

「筆意」は、書道でよく使われることばです。「筆意がある」とか「筆意の変化」「筆意を学ぶ」などのように言われますが、書道以外では使われないため、意味がわかりにくいですね。

「筆意」をネットで調べてみましょう。グーグルで最初に出てくるのは「運筆の心構え。また、書いた書画の趣。」(2017年4月現在)
「運筆の心構え」ということになると「落ち着いてゆっくりていねいに」といった心構えが頭に浮かびます。また「趣」をネットで調べると「味わい。面白み。」とすれば、「筆意」とは「書いた書画の味わい。面白み。」ということになります。これが「筆意」でしょうか。

同じくネットに、もう少し専門的な書道辞典のサイトがあります。そこでは「筆によって書かれた文字に込められた筆者の気持・気分をいいます。」つまり、筆意の「意」は、「書いた文字に込められた筆者の気分」だというのです。

比田井天来は「筆意」ということばを頻繁に使いました。

王羲之行穣帖 王羲之思想帖

右:王羲之行穣帖 左:王羲之思想帖

上の「行穣帖」と「思想帖」について、こんなふうに説明しています。


まずはじめから順を追って申し上げますと、行穣の行の字は一字切り離してみるとはなはだ形の悪い字であるが、これは穣の字とあわせて一字のように見るべきであります。二字続けてみるとまことによく調和していて、ふっくらとした暖かい感じを与えている。
また、行の字はふつう内に向けるのを外に出し、左をはらませたところに筆意がある。同じ行の人という字は、右のはねが曲がっていて妙な字ではありますが、これもやはり一種の筆意があります。
つぎのページ(思想帖)の羲之頓首、思想、告慰、乏気などの文字がまた一字のように書く意匠のもとに構成されています。(中略) 苦の字の初筆、これは草書の中に隷書に用いる波磔を入れて筆意を現したもの。

ここで使われている「筆意」は「運筆の心構え」ではなく、また「書いた書画の趣」というのともちょっと違います。それは、書く人の「意識」ではなく、書そのものがもっている「意匠」とでも言うべきもので、漠然とした「趣」とも異なる、もっと具体的な「あらわれ」です。

簡明書道用語辞典』では「運筆の意趣。書画から感じられる情趣や味わい。ふでづかい」となっています。ネットの解説はこれに似てはいますが、内容はまったく違ってしまいましたね。

2011年、『大学書道』という本を作りました。巻末に「書道要語解説」がありますが、これを作ってくださったのが伊藤文生先生です。短く的確な解説だったので、「もっと本格的な辞典を作りませんか?」とお願いしたのが、『簡明書道用語辞典』のきっかけでした。ご快諾くださいましたが、時々お目にかかってその後の進捗状況をうかがうと「死なない程度にやってます」というお返事。本当に着々とすすめてくださり、6年後にめでたく完成! となったのです。(ほんとに嬉しい)

なお、この辞典には便利な附録がついています。王朝年代表・人名表・干支表・十干十二支の異称・年齢の異称・二十四節気・漢字の形に関するマメ知識(常用漢字について・異体字・紛らわしい漢字・学習漢字)です。「年齢の異称」に「古希」の由来となった杜甫の詩と現代語訳がありますのでご紹介します。


朝回日日典春衣、每日江頭盡醉歸。
酒債尋常行處有、人生七十古來稀。
穿花蛺蝶深深見、點水蜻蜓款款飛。
傳語風光共流轉、暫時相賞莫相違。
役所がえりは質屋に通い 曲江のほとりで毎日酔いつぶれ
飲み屋のつけはあちこちと どうせはかない人生だもの
花に舞うチョウを見たり 水面に遊ぶトンボをながめ
光あふれる都の野辺に しばしの春をともに楽しもう

現代の70歳も同じかな?

 

簡明書道用語辞典の商品ページはこちら

Category :
書道