2010年4月27日

文学者の書 芥川龍之介・吉川英治・野口雨情

の野口雨情s.jpg
今日も新刊「漢字かな交じり書の名品」から、三人の文学者の書をご紹介しましょう。




まず、芥川龍之介です。

あ芥川.jpg人生は落丁の多い本に似てゐる。一部を成してゐるとは称し難い。しかし兎に角一部を成してゐる。  芥川龍之介

『芥川龍之介全集』の巻頭のために書かれたものです。
芥川龍之介は自ら書画をよくする文人でした。こんなことを言っています。

凡て芸術家はいやが上にも技巧を磨くべきものだ。...霊魂で書く。生命で書く。―そう云う金箔ばかりけばけばしい言葉は、中学生にのみ向って説教するが好い。
危険なのは技巧ではない。技巧を駆使する小器用さなのだ。小器用さは真面目さの足りない所を胡麻化し易い。


次は吉川英治

よ吉川英治むすめ.jpg むすめに与ふ  倖せ何とひと問はゞ むすめはなにと答ふらん 珠になれとはいのらねど あくたとなるな町なかの よしや三坪の庭とても たのしみもてば草々に 人生植えるものは多かり
 昭和三六年夏 或る雨の夜 軽井沢にて 英治

結婚が決まった娘に贈った書です。淡々とした中に、父親の心がこもっています。

最後は野口雨情。

の野口雨情.jpg春のお月さまうすくもり
お顔にうす紅つけたとさ 雨情

童謡をたくさん残し、子どもの心を大切にした雨情。
それがこの作品にあらわれていると思います。
技術におもねらず、あどけなさを残した書。
私がとっても好きな作品です。

書家は「漢字かな交じりの書」などという言い方をして
展覧会のジャンル分けをしたりしますが
本来は、現代の日本語の書です。
書を愛する文人たちが残した書を
もう一度見直してはいかがでしょう。

(今日もとってもマジメ)

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