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比田井天来

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第9回 「タコひげ」 / 東山紗智子

家族の証言

今回は、天来の次女、東山紗智子(本名比田井千鶴子)の文章を紹介します。洋画家、角浩と結婚してフランスへ行き、帰国後 は洋画家として活躍しました。二度の結婚と離婚の後、名前が変わるのが面倒だとばかりに、東山紗智子を名乗りました。いつでも帽子をかぶったおしゃれな女性でしたが、子どもの頃から茶目っ気があり、天来から可愛がられた様子が、文章にもあらわれています。

第9回 「タコひげ」/東山紗智子

長女ゆり子と次女千鶴子。

あんま

私は子どもの頃から指先が強かったため、よく父にあんまをさせられた。いつまでたってもお許しが出ないので、大人になってからはいろいろ考えた末に、名案を思いついた。それは、父がつかれている時など、始めるとすぐに大きないびきをかき出すので、少し様子を見てから(すぐだと気がつきやすいので)、七・ 八回目にぐっとひざをずらし、いびきにあわせて立ち上がり、次のいびきにあわせてふすまをあけ、またいびきにあわせて閉め、逃げ出すことにした。

いつもこの手で成功したが、たまに後で気がつくことがあるらしく、私の様子を知った父は、わざといびきをかいていたらしい。いつもの調子で失礼すると、廊下に出るやいなや「コラッ」という声がした。失敗したなと思って戻ってくると、「なんだ、きっと逃げ出すと思って、うさぎ寝入りをしていたんだよ」をいわれたので、「あらうさぎ寝入りでなくて、たぬき寝入りでしょ」と言ったら、「ああそうか、たぬきだったか」といいながら大笑いした。それからしばらくの間、我が家では「ウサギ寝入り」という言葉が流行した。

紙ひき

子どもの頃、よく墨磨りをさせられたり、机の向こう側で紙ひきをさせられたものである。墨磨りはきらいだが、紙ひきの方は、いろいろの形の文字が書けていくのを見ていると、あまりたいくつもしない。しかし、あきてくるので、時々批評をすることにした。何しろ子どもなので、何も分かるはずがない。しかし、 時々はでな筆法などに会うと「うまい」とか「よくできた」とかいうと、それが偶然父が満足したときに合致したときは、たいへんなごきげんで、「よく分かるねえ」とか「うん分かるか」といって、とても嬉しそうだった。もちろん私も嬉しかった。

電信柱

家の近くで、向こうから父がやってきた。せまい道なので、当然気がつくと思って歩いていった。私がすぐ目の前に来ているのに、全然気がつかないで、どんどん道の端のほうへ行くので、オヤと思って見ていると、道端の電信柱の前へ行って、何か字を書くまねをしている。私があきれて見ているのも気がつかず、それがすむと私をよけるようにして、どこかへ行ってしまった。

タコひげ

私は家にいてもアトリエがないので、ほかに間借りしていることが多かったが、時々家に帰ってくると、父はとてもうれしそうだった(指圧をしてもらえるためだったと思う)。ある時、食事がすんで、新聞を読んでいたとき、私がちょうど帰ってきて、父のひざによりかかりながら話をしていた。父は新聞を読んでいるので、私の話なんか聞いていないらしいが、なんとなく時々返事をしていた。私もつまらなくなり、ちょうど目の前にやぎひげが下がっていたので、それをいくつかに分けて、こまかく南京あみにした。だいたい五本くらいあみおえて、もう少しでタコのように出来上がる頃、ようやく新聞を読み終えて気がついた父は、びっくりして、コラッとどなったが、そのときはもう私は次の間の方へ逃げ去った後だった。そっとのぞいてみたら、一生懸命タコの足をほどいている。わたしはおかしくてたまらなかった。

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