みやと探す・作品に書きたい四季の言葉

連載

第37回 雨に夏が調う:合歓の木、子守歌、枇杷、からす

「泉鏡花集」を開くみや

20.6.25 東京都清瀬市

1 子守歌の力
  薄紅[うすくれない]の 花の咲く
  ねむの木蔭[こかげ]で ふと聞いた
  小さなささやき ねむの声
  ねんね ねんねと 歌ってた
           (「ねむの木の子守歌」(美智子皇后陛下)より抜粋)

  雨の合間にふと気づくと、木々は緑濃く茂り、草の花々には陽のにおい。あたりはすっかり夏めいてまいりました。繁った森の中に、今合歓(ねむ)の木が花盛りです。合歓の木は豆科の植物。対になって広げているいる細かい葉を夜になるとぴたりと閉じて重ねます。それをお休みの姿、眠っているように見て、眠りを連想させるものになったのでしょう。花言葉は「夢想」。ほんのりと煙るように咲く赤い花も、夢みているようで幻想的です。


20.6.28 東京都清瀬

  この植物が眠りと関連づけられて以来、夜の歌の題材になるのは当然のことでしたが、『万葉集』などでは男女の共寝を暗示する植物でした。当時から用いられている「合歓」という用字もその逢瀬の幸いを当てたものです。音は「ねぶ」と濁音でした。しかし、今日、合歓の木といえば、「ねむ」「ねむい」のネムの音の力もあって、もっとわかりやすい睡眠のイメージがこの言葉の中心を占めています。 皇后陛下の御作になる「ねむの木の子守歌」は詩の世界にことに深くこの木の印象を刻みました。子守歌といえば合歓の木、のような深いつながりを持つまでに至っています。

  子守歌は繰り返し歌いながら、歌ううちに、歌っている側も不思議に慰撫されてくるものです。子育ての頃の若い親の疲れや苦しみを、優しい歌の力がひととき癒してくれる、それは幸せなことです。     

  数日前から近くの川に鴨の雛の姿が見られるようになったのも、夏の到来を感じさせます。ふわふわした丸い毛糸玉のような雛鳥が、一日一日明らかに様子を変え、鳥らしい姿に育ってゆくのはおもしろくも不思議な光景です。




20.6.27 東京都清瀬市柳瀬川

  何心無げに群になって遊んでいる雛鳥たちを、付かず離れず守っている親鴨の声を、ここにお届けできないのが残念です。気遣わしげな、何ともやさしい声で絶えず呼びかけています。「ちゃんと付いてきなさい」とか、「よそ見しないで」とか、「一人で行ってはダメよ」などと注意でもしているのでしょうか。これがまさに自然のありようなのでしょうが、実に愛情深く感じられます。


20.6.27 東京都清瀬市柳瀬川

  これだけたくさんの雛がいて、あたりが鴨だらけにならないというのは、無事に大人になれる鳥が少ないからでしょう。川の周辺にはかわせみや鷺の仲間などきれいな鳥をさまざま見かけますが、中には子鴨を狙う天敵も多いと聞きます。自然界の子育てはまさに命懸けの厳しさです。


コサギ 20.6.22 東京都清瀬市柳瀬川


鷺の王 ゴイサギ 20.6.22 東京都清瀬市柳瀬川

     『平家物語』に「五位鷺」の名前の由来があります。醍醐天皇が神泉苑に
      行幸された折、池で遊ぶ鳥を見つけ、「あの鷺をとってまいらせよ」と命
      じられた。鷺は羽繕いして飛び立つところでしたが、「宣旨(せんじ)で
      ある」と言ったところ、止まって飛び立たなかった。天皇は「汝が宣旨に
      従ったことは神妙である」と褒め、鷺を五位になし、以後鷺の中の王たる
      べしと定めた、という逸話です(巻五都遷り)。


カワセミ 20.6.25 東京都清瀬市柳瀬川


20.6.28 東京都清瀬市柳瀬川堤

  森に合歓の花が開き、鴨母の子育て忙しいこの時期にちなみ、このたびは文例に子守歌と子育ての風景、そして合歓の花を集めてみました(※)。

  ※著作権の関係上新しい子守歌の多くはご紹介できません。是非お知らせしたい
   ものを一部抜粋などの形式で掲げてあります。 




【文例】
※文例のタイトルに「(一部抜粋)」とあるものは、著作権がある場合があります。

[和歌]

・昼は咲き夜は恋ひ寝[ぬ]る合歓木[ねぶ]の花
 君のみ見めや戯奴[わけ]さへに見よ  
                紀女郎『万葉集』1461

・我妹子[わぎもこ]が形見[かたみ]の合歓木[ねぶ]は花のみに
 咲きてけだしく実にならじかも  
                大伴家持『万葉集』1463


20.6.28 東京都清瀬市柳瀬川

[俳句]
 
・象潟や雨に西施が合歓の花  
          「奥の細道」芭蕉

[童謡・わらべ歌]

・おころり小山  北原白秋

  おころり小山の白兎 白兎
  ねんねんころりと もうねてか
  椎[しい]の実 かやの実
  探してか 探してか

  おころり小山の白兎 白兎
  お耳もすやすや ようねてか
  三日月さまゆゑ
  まだねぬか まだねぬか

  おころり小山の白兎 白兎
  ねんねんころりよ おころりよ
  ねないと あられが
  ころげます ころげます



・蛙[かえる]の笛  斎藤信夫

  月夜の 田圃[たんぼ]で コロロ コロロ
  コロロ コロコロ 鳴る笛は
  あれはね あれはね
  あれは蛙の 銀の笛
  ささ 銀の笛

  あの笛きいてりや コロロ コロロ
  コロロ コロコロ 眠くなる
  あれはね あれはね
  あれは蛙の 子守唄
  ささ 子守唄

  蛙が笛吹きや コロロ コロロ
  コロロ コロコロ 夜が更ける
  ごらんよ ごらんよ
  ごらんお月さんも 夢みてる
  ささ 夢みてる



・おうま 林柳波

1 お馬のおやこは なかよしこよし
  いつでもいっしょに ぽっくりぽっくりあるく

2 お馬の母さん やさしい母さん
  こうまを見ながら ぽっくりぽっくりあるく


・七つの子  野口雨情

  烏[からす]なぜ啼[な]くの
  烏は山に
  可愛[かわ]い七つの 子があるからよ

  可愛い 可愛いと 烏は啼くの
  可愛い 可愛いと 啼くんだよ

  山の古巣へ いって見てごらん
  丸い眼をした いい子だよ





・子守り歌  民謡

  ねんねん ころりよ
  おころりよ
  ぼうやは 良い子だ
  ねんねしな

  ぼうやの おもりは
  どこへ行つた
  あの山 越えて
  里へ行つた

  里の 土産[みやげ]に
  何もろた
  でんでん太鼓に
  笙の笛


・江戸子守歌

  坊やはよいお子お寝ねしな 坊やのお守はどこへ行った
  あの山越えて里へ行った 里のみやげに何もろた
  でんでん太鼓に 笙の笛 金の手筥に 銀の杖
      ねんねんおねむのよいお子よ 夢のお里でお寝ねしな


・竹田の子守り唄  民謡(京都)

  守[も]りもいやがる 盆からさきにや
  雪もちらつくし 子も泣くし

  盆が来たとて 何うれしかろ
  かたびらはなし 帯はなし

  この子よう泣く 守りをばいじる
  守りも一日 やせるやら

  はよも行きたや この在所こえて
  向こうに見えるは 親の家


・中国地方の子守歌

  ねんねこ しゃっしゃりませ
  寝た子の かわいさ
  起きて 泣く子の
  ねんころろ つらにくさ
  ねんころろ ねんころろ

  ねんねこ しゃっしゃりませ
  きょうは 二十五日さ
  あすは この子の
  ねんころろ 宮参り
  ねんころろ ねんころろ

  宮へ 参った時
  なんと言うて 拝むさ
  一生 この子の
  ねんころろ まめなように
  ねんころろ ねんころろ


      みやのお気に入りは白い犬のぬいぐるみ
      持って寝るのは赤ちゃん猫の時から変わりません。

[訳詩・近代詩]

・シューベルトの子もり歌  内藤濯

  ねむれねむれ 母の胸に
  ねむれねむれ 母の手に
  こころよき 歌声に
  むすばずや 楽しゆめ

  ねむれねむれ 母の胸に
  ねむれねむれ 母の手に
  あたたかき その袖に
  つつまれて ねむれよや

  ねむれねむれ かわいわく子[ご]
  一夜[ひとよ]寝[い]ねて さめてみよ
  くれなゐの ばらの花
  開くぞや まくらべに

  ねむれねむれ 母の胸に
  一夜寝ねて 起きてみよ
  かをりよき ゆりの花
  にほふぞや ゆりかごに


・ねむの木の子守歌  美智子皇后陛下

  ねんねの ねむの木 眠りの木
  そっとゆすった その枝に
  遠い昔の 夜[よ]の調べ
  ねんねの ねむの木 子守歌

  薄紅[うすくれない]の 花の咲く
  ねむの木蔭[こかげ]で ふと聞いた
  小さなささやき ねむの声
  ねんね ねんねと 歌ってた

  故里[ふるさと]の夜[よ]の ねむの木は
  今日も歌って いるでしょか
  あの日の夜[よ]の ささやきを
  ねむの木 ねんねの木 子守歌



・ブラームスの子守歌(一部抜粋)  武内俊子

  ねんねんころり 母の歌に
  月も昇る 夢の小道
  ひらり ひらり ひらり蝶々
  花のかげへ 宿をかりに


・ブラームスの子守歌  緒園涼子[りょうし]

  ねむれよあ子 ばらの花
  汝[な]がもとに 咲きめぐる
  ねむれあ子よ いと楽しく
  夜のとばり きえゆくまで

  ねむれよあ子 天[あま]つ神
  汝が夢路 みまもれば
  ねむれあ子よ 眼[まなこ]とじて
  楽し夢路 たどりゆけよ


・ブラームスの子守歌(一部抜粋)  旗野十一郎

  よい子 よい子
  おお ねんねしな
  おお ねんねする愛子[いと]さまへ
  何をあげよ 五色[ごしき]のまり
  たまの笛[ふゑ]か あづまの琴


・ブラームスの子守歌  堀内敬三

  眠れよ吾子[あこ] 汝[な]をめぐりて
  美[うるは]しの 花咲けば
  眠れ、今はいと安[やす]けく
  あした窓に 訪[と]ひくるまで。

  眠れよ吾子 汝が夢路を
  天[あま]つ使い 護りたれば
  眠れ、今はいと楽しく
  夢の園に ほほゑみつつ。


・ブラームスの子守歌(一部抜粋)  中山知子

  バラの花は 風に揺れて
  夢の歌を うたいます
  ねむれぼうや 静かな夜
  花の中で 朝を待つの

  空の星は ひかり青く
  夢の国へ さそいます



・フリースの子守歌(モーツァルトの子守歌)  堀内敬三作詞

  ねむれよい子よ 庭や牧場に
  鳥もひつじも みんなねむれば
  月はまどから 銀の光を
  そそぐ この夜
  ねむれよい子よ ねむれや

  家の内外 音はしずまり
  たなのねずみも みんなねむれば
  奥のへやから 声のひそかに
  ひびくばかりよ
  ねむれよい子よ ねむれや

  いつも楽しい しあわせな子よ
  おもちゃいろいろ あまいお菓子も
  みんなそなたの めざめ待つゆえ
  夢にこよいを
  ねむれよい子よ ねむれや


・風の子守歌(抜粋)  別役実

  おやすみなさい
  かぜは行ってしまった日を
  かぞえながら吹くのです
  あの日のしあわせと
  この日のふしあわせと
  いつかみた あおいそら

  おやすみなさい
  かぜは忘れてしまったことを
  かぞえながら吹くのです
  あの日のしあわせと
  この日のふしあわせと
  いつかみた ひのひかり


・ゆりかご  平井康三郎

  ゆりかごに ゆれて
  静かに ねむれ
  風は そよそよと
  白き腕[かいな]に 吹くよ

  ゆりかごに ゆれて
  静かに ねむれ
  風は 夢をさまし
  黒き瞳に 吹くよ


20.6.28 東京都清瀬市

・揺籃[ゆりかご]のうた」  北原白秋

  揺籃のうたを
  カナリヤが歌うよ
  ねんねこ ねんねこ
  ねんねこよ

  揺籃のうえに
  枇杷[びわ]の実が揺れるよ
  ねんねこ ねんねこ
  ねんねこよ

  揺籃のつなを
  木ねずみが揺するよ
  ねんねこ ねんねこ
  ねんねこよ

  揺籃のゆめに
  黄色い月がかかるよ
  ねんねこ ねんねこ
  ねんねこよ





     雨の日の猫はとりわけよく寝るということについては、以前お話したことが
     あったと思います。虎もライオンもそうだと言い、みやもひたちもよく寝て
     おります。
     ひたちはよほどおおらかな性格と見えて、小さかった頃からの昼寝場所をは
     み出すようになった今、寝返りを打ってはズドンと下にこぼれていますが、
     全く気にせずまた這い上がり、こともなげに再び寝に入ります。みやは遊ん
     でいるか、寝ているか。ひたちは食べているか、寝ているかといった趣で、
     猫の皆さんまことに無駄のない過ごし方です。
     肥満防止のために食事は出したままにしないことにしました。ちょっと離れ
     たらすぐ残りはかたづけてしまいます。ですからひたちは前にも増して人の
     食べ物に関心を持つようになっています。もともと甘いものが大好きなひた
     ち。ダイエットの道は厳しいようです。


好いもの見つけた!


撮ってないで止めるべき!


しっかり見ているけれども別に止めないみや
「メロン嫌いだし」


20.6.28 東京都清瀬市




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