文房四宝を楽しむ

せいひぞうぬし
清秘蔵主
早川忠文

墨4 文化大革命と唐墨とうぼく

 筆と同じように、墨もまた文化大革命により、暖簾のれんの廃止と墨名、図柄の変更を余儀なくされました。多くの墨匠ぼくしょうが活躍していたのですが、大きくは清朝二大ボクショウ曹素功そうそこう胡開文こかいぶんを中心としたグループとに編成されていきました。

上海墨厂歙県きゅうけん徽墨きぼく
曹素功を中心としたグループ胡開文を中心としたグループ

さらに墨の等級表示、墨名、図柄の変更、新種の銘柄など文革の意向にそって進められました。

旧等級新等級銘柄新種
五石漆煙油煙一〇一鐵齋・大好山水光亡万丈・熊貓パンダ・魯迅詩・奮発図強・自力更生
超貢漆煙油煙一〇二百壽圖(絢麗光彩)長征
超貢煙萬壽無彊・指揮如意
貢煙油煙一〇三天保九如(勁松迎風) 
頂煙油煙一〇四紫玉光・金殿香 

 図柄の変更では「鐵齋」の國華第一の抹消。「天保九如」の (円)(月)の抹消。「萬壽無彊」の五爪の龍から松鶴の図へ。名称の変更では「百壽圖」から「絢麗ケンレイ光彩コウサイ」へ。「天保九如」から「勁松迎風」へ。又新種の名称も時代思想を反映したものとなっています。

筆と同様に文革終了後の大量生産体制による品質低下を考える時、この十年間はまだまだ捨て難い魅力をもっています。しかし文革前の墨匠のものと比べればやはり筆と同じという事になってしまうでしょう。

最後に又某工場から伺った話になりますが、多くのベテラン墨匠が追放の憂き目に逢ったとの事や、若い紅衛兵に墨の木型を薪にされてしまった事や、それを食い止める為の苦労話を思い出さずにはいられません。

今回紹介の墨
  • 鉄斎翁書画宝墨 右から文革前、文革中、文革後
    鉄斎翁書画宝墨 右から文革前、文革中、文革後
  • 右は文革前の天保九如 左は文革中に墨銘が「勁松迎風」と改められ、図柄から(円)(月)が抹消された。
    天保九如
  • 文革後の墨。右は「奮発図強」で電化の推進や他にはダム建設の図柄等、近代化を宣伝する意図が見え隠れする。左は「熊貓」。文字どおりパンダが画かれている。
    文革後の墨。
最終更新日:2015年8月11日