文房四宝を楽しむ

せいひぞうぬし
清秘蔵主
早川忠文

筆1 鶏毛筆から「学院法」へ

学院法がくいんほう」は古典臨書用の銘筆として、すでに半世紀を経過し、今なお現役活躍中の筆です。比田井天来先生の書学院にて販売されていた筆を、桑原翠邦先生からお借りして精華堂にて模したもので、「書学院の法」に由来して名付けられています。 昭和35年3月号の「書宗しょそう」巻頭言で具体的な経緯を知ることができます。52才の翠邦先生と、弱冠25才の精華堂佐藤社長の鶏毛筆けいもうひつをはさんでのやりとりが彷彿と目に浮かぶとともに、翠邦先生の筆(とりもなおさず書)に対する基本的な姿勢がうかがえる貴重なお話です。
書宗院一回展のとき、売店を出した筆屋さんが賞品を寄贈したいという。賞は設けない会だからと辞退したら、せめて記念の品として、鶏毛筆でも、との話。私はせっかくだが、鶏毛筆ならいらないと答えると、何故?と質問してきた。 私は鶏毛筆がおもしろいものだということは、北京にいた当時使ったことがあるから知ってはいるが、今、書宗院が、まともな書道、まともな臨書を目指して仕事を始めようとするときに、変わっていておもしろいという品物を渡すのでは、趣意が通らない。同じ寄贈してくださるなら、まともな筆をもらいたいとつけ加えた。(中略) 筆屋さんは、それではまともな筆とはどんな筆を指しますかと、さらに聞き返してきたので、私は、それは私があれこれいうよりも、昔、天来先生が書学院から稽古用にと(もちろん書学院では、古法帖の臨書以外に稽古はなかった)発売させておられた数種の筆を保存しているから、それを見て参考にしたら、と、幾本かの筆を貸し与えた。中の一種を模作したのが、今、佐藤精華堂から売り出している「学院法」である。そんな行きがかり上、たのまれて、私が命名したものである。 (「書宗」巻頭言・桑原翠邦)
「学院法」の中で最初に作られたのは「小」で、次に「中」、さらに「特小」、「特中」が加わり、条幅用の3号〜1号にまで及ぶ7種類のシリーズが完成したのです。当初「小」が70円、その後徐々に値を変え、現在は2300円。「学院法」の息の長さを感じないわけにはいきません。
今回紹介の筆
  • 鶏毛筆
  • 学院法
最終更新日:2014年11月13日