筆
筆墨硯紙
筆墨硯紙

基礎講座

筆の原料-毛のいろいろ

筆は軸と鋒(穂先)から作られています。

 

軸は竹がもっとも多く、続いて木、ほかにプラスティックや水牛の角、玉や陶器もあります。

軸の鋒(穂先)に近い部分が水牛の角やプラスティックで太くなり、持つ部分が細くなっているものを「ダルマ」とか「らっきょう」と呼びます。大きな筆は、軸が太いと持ちにくいですからね。

 

そして、筆の書き味を決めるのは、なんといっても穂先の部分。ほとんどの筆は動物の毛が使われています。

 

 

羊毛筆

 

柔らかい毛の代表格が上の写真、羊毛筆(ようもうひつ)です。書の専門家に大人気の高価な筆ですが、毛がとても柔らかいので、初心者はなかなか使いこなせません。

すぐに毛先がすり減ってしまう硬い毛の筆と比べ、羊毛筆は何十年も使うことができます。

これはどんな動物の毛なのでしょう? 羊毛というくらいですから、羊かな?

 

 

羊毛筆のヤギ

 

ヤギです! 中国の特別な地域で飼われているヤギ。YouTube

背中や顎など、部位によって毛質が異なりますが、中でも細光鋒と呼ばれる毛を拡大したのが右です。

 

 

 

上田桑鳩先生が考案愛用した羊毛筆「暖心」です。普通の筆は先が尖っていますが、これは「先揃え」になっています。独特の味わいのある線が引けます。

 

宿浄中鋒4号暖心  宿浄中鋒6号暖心

 

 

比田井天来愛用筆

 

比田井天来は、剛毛筆によって「俯仰法」を発見しましたが、63歳頃から羊毛筆を用いるようになりました。愛用した筆を復元したのが上の三本です。鹿毛などが少し入っていて、鋒があまり長くないので、羊毛筆に慣れていない方でも使いやすくなっています。最晩年の『戊寅帖』のような味わいが生まれます。

 

晴峰  羊毛の剛  かな羊毛の剛

 

 

 

硬い毛の筆です。右からいのしし、むじな、天尾(あまお・馬の尻尾)、天尾、山馬(さんば)、白たぬき、たぬき、いたちです。

 

 

 

イタチの毛の先端を拡大したのが上左です。右の山馬(サンバ)は剛毛筆の代表格ですが、最近は捕獲できないので希少価値があります。

下左は赤天尾、右は白鹿で、シラシンと呼ばれます。

 

 

兼毫筆

 

硬い毛の筆は羊毛筆より使いやすいと言えますが、初心者にもっとも使いやすいのは、数種類の毛を混ぜた兼毫筆(けんごうひつ)です。白い毛のように見えても、外に白い毛を巻いた筆もありますから、一概には言えません。

 

 

 

兼毫筆はたくさんありますが、特徴のある筆をご紹介しましょう。

江戸時代に、貫名菘翁が筆匠、雲平さんに発注した筆が、今も作られています。適度な硬さで、日常的にも使いやすいと評判です。

 

菘翁筆大  菘翁筆小

 

 

比田井天来愛用筆

 

インターネットで配信した「書道テレビ」で、高橋蒼石先生が使ってくださった筆「華蔵山主珍玩」は、天来愛用筆を復元したもの。40歳代、50歳代に使った腰のある筆です。

 

華蔵山主珍玩

 

 

 

中国の小筆の「写巻」「双量写巻」は書道用品店などでよく見かけますね。腰があるので、小さい文字を書く時に便利な筆です。

 

 

中央の茶色の毛は「紫毫(しごう)」、中国の野生のうさぎの毛で、とても硬い毛です。それを巻いている白い毛は羊毛です。

 

別製写巻(宝研堂監製)  双量写巻(宝研堂監製)

 

 

 

ほかにもいろいろな筆があります。

右のグループは植物で、月下美人、竹、梅の枝、筍の皮、山帰来、わら、藤蔓。

中央は獣毛で牛耳、マングース(白と赤)、むささび、むじな、りす、猿。

左は鳥の毛で、白鳥、鶏、錦鶏、ほろほろ鳥、七面鳥、孔雀、しらさぎ、鴨、シャモです。

 

 

 

最後に、最近増えてきたナイロンの毛です。カツラに使われるので、研究されているそうです。腰があって書きやすく、獣毛と異なり、材質が一定しているので、いろんな毛と混ぜて使われています。

 

インターネットで配信した「書道テレビ」の中で、石飛博光先生がいろんな筆を使ってくださいました。どんな線が引けるか興味のある方は、YouTubeのこちらをどうぞ。