天来書院で筆のセールが始まりました。

そこで今回は、臨書に適した筆を実際に使ってみて、感想を書きたいと思います。

2000円から3000円代のものを選んでみました。

 

古典を臨書するとき、原本の筆意や形をストレスなく再現できるのは、硬めの兼毫筆です。

 

穂に数種類の動物の毛を使った筆を兼毫筆といいます。

長さの異なる毛が組み合わされています。

 

束ねた毛を平らに伸ばし、何度も混ぜ合わせます(練り混ぜ)。

 

なので、筆の構造はこんな感じになっています。

先端に近い部分が細くシャープなものと、ぽってりとしたものに分かれますが、古典の強く豊かな線を再現するには、先端にボリュームがあるほうがよいと思います。

 

毛が硬めの兼毫筆、5種類を試してみました。

 

「顔氏」(がんし) 2000円+税 一休園

今回使った中で、もっとも硬い毛の筆は一休園の「顔氏」です。

穗12×53mm 全体270mm。

ちょっと大きめでしょうか。

馬(赤毛・尾脇毛・うす腹毛)と黒狸が使われています。

どれも硬い毛で、穂はぽってりとした形をしています。

DVD「漢字かな交じり書の技法」の中で、大井錦亭先生が「始平公造像記」を臨書して、「初心者におすすめ」とおっしゃってますが、私もそう思います。

ユーチューブで動画を見ることもできます。

 

 

昭和初期に「臨書」を提唱したのは比田井天来。

天来の愛用筆を復元したものが二種類あります。

 

「学院法 特小」 (がくいんほう とくしょう) 2500円+税 仿古堂

まずは、桑原翠邦先生の監修で、比田井天来が臨書用に使った筆を復元した「学院法」。

発売当初は精華堂が製作し、営業終了した現在は仿古堂が製作販売をしています。

いろいろな種類がありますが、中で一番の人気は「学院法・特小」(2500円+税)です。

穗9×41mm 全体235mmと小さめです。

馬(赤天尾・黒天尾)・鹿・黒狸と硬い毛で作られており、穂先が若干短めなので、ストレスなく臨書ができます。

穂先はやはりぽってりとした印象です。

素朴で強い線を引くことができます。

DVD「書・二十世紀の巨匠たち」第三巻に桑原翠邦先生の揮毫映像があります。

 

 

華蔵山主珍玩」(けぞうさんしゅちんがん) 3800円+税 天来書院

もう一つ、比田井天来愛用の筆を仿古堂さんに渡して、そのまま復元してもらったのが「華蔵山主珍玩」です。

穗11×55mm 全体265mm。

天来書院で販売しています。

使われているのは馬、羊毛、狸。

なんと柔毛の代表である羊毛が混ざっていますが、腰があり、いくぶん粘りがあるように感じます。

上の二種より穂が長く、形もシャープですが、先端に強い毛が多く混ざっているようです。

少し先が利いて、今の私のお気に入りです。

YouTube「新しい筆に挑戦」で、高橋蒼石先生が実際に使っている動画(0分25秒から)を見ることができます。

 

 

新法古 小」(しんほうこ) 2500円+税 仿古堂

比田井天来・小琴、そして門下の先生方の筆を製作した仿古堂の「新法古」は、桑原翠邦先生が監修した臨書用の筆です。

穗9×45mm 全体245mm

原料は馬・羊毛・狸で、華蔵山主珍玩と同じですが、こちらは若干あっさりとした書き味です。

やはり先端に硬い毛が多いようです。

こちらが好きな方も多いかもしれません。

 

原料が同じなのに書き味が違うのはどうして? と仿古堂さんに聞いたところ、

同じ原料でも微妙に違うものがあり、外側に巻く化粧毛によっても書き味が変わります。

職人さんによって、練り混ぜのときの配合が変わったりします。

とのこと。

結局、使ってみないとわからないみたいです。

 

 

博真 4号」(はくしん)  2200円+税 宝研堂

石飛博光先生監修・愛用の筆です。

この筆は「臨書用」とはうたっていませんが、今回おすすめしたい筆の一つです。

穗10×56mm 全体254mm

穂の原料は馬(白毛)と羊毛です。

上の三種類より若干柔らかめですが、腰がしっかりしています。

先端の手前の部分にボリュームがあります。

先が利くので、「雁塔聖教序」や「伊都内親王願文」などを臨書すると、表現の幅が広がるように思います。

 

 

以上、5種類の兼毫筆は、穂先を半分ほどおろして使います。

必要以上におりてしまったり、墨を含ませた部分の根本が固くなったら、水で洗って糊をつけなおしましょう。

普通のでんぷんのりでいいそうですが、濃さが難しいので、私は筆用の糊を使っています。

ふでのり

毛の根本までしっかり糊を含ませるように、まんべんなくつけましょう。

 

穂先全体が糊を含んだら、最後に余分な糊を拭います。

職人さんのように麻糸を使うのが本格的ですが、中国では指で整えていたので、私はそれをまねしています。

DVD筆墨硯紙のすべて 中国編(筆墨硯紙のふるさとを尋ねる)はこちら

 

 

兼毫筆ではなく羊毛筆はどうでしょう。

 

天来清玩 小」(てんらいせいがん) 8000円+税 仿古堂

仿古堂にいまも伝わる比田井天来愛用の筆を復刻したもの。

「大」と「小」がありますが、半紙の臨書には「小」がおすすめです。

穗9×46mm 全体247mm

 

羊毛のみで作られていますが、穂が短く、腰があるというので、鄭羲下碑を書いてみました。

硬い毛の筆とは異なった味わいの線が引けます。

試してみる価値あり!

 

 

最後に、小さい字や写経におすすめの筆、廉価版です。

 

別製写巻」(べっせいしゃかん) 1100円+税 宝研堂

「写巻」は昔から有名な唐筆(中国製の筆)です。

品質にバラつきがあるので、宝研堂で入念な原料の選別・検品を行い、丁寧に一本ずつ穂先を調整して仕上げられています。

穗5×22mm 全体176mm

原料はうさぎと羊毛。

うさぎといっても、中国の野生のうさぎで、「紫毫」と呼ばれる茶色の硬い毛です。

You Tubeで動画が見られます。

先端がうさぎで、短い羊毛がこれを支えているので、先端のみに墨をつけます。

 

「写巻」と並んで「双料写巻」(1200円+税)という筆があります。

わずかにサイズが大きくできています。

上から中国で購入した「双料写巻」、「別製双料写巻」、「別製写巻」。

この中で私がおすすめするのは「別製写巻」。

なんとなく書きやすい気がします。

(なぜ? と聞かれても困る)

ちなみに、筆の下にあるのは空海の書を集めた般若心経(比田井南谷編)です。

 

 

DVD筆を極める」で、手島右卿先生愛用の「寿昌」という筆を紹介しています。

羊毛の中でも希少の毛を使った高価な筆で、毛は柔らかく、使いこなすのは難しい筆です。

続いて、手島先生がこの筆で臨書した半紙が出てきますが、原本に肉薄した見事な臨書です。

筆は使い手によって、威力を発揮するのだなとつくづく感じました。

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