前回から引き続き、比田井南谷の対談をご紹介します。
南谷が最初にアメリカへ行ったのは1959年。
個展を開催し、作品もたくさん売れましたが、自分の作品が「書」としてではなく「絵画」として見られていることに疑問を感じ、第二回渡米のときには、大学で講演し、アーティストに書を教えました。
石城
なるほど。先生がこういった作品を一番最初にアメリカに持っていかれたのはいつ頃なんですか。
南谷
1959年ですね、第一回目は。
翌年にサンフランシスコのデ・ヤング美術館で一ヶ月個展を開いたんですがね、大きな作品を25点ほど、ゆったりした会場に展示してくれたので、本当に満足でした。
そこに来たニューヨークの画廊の主人がニューヨークでもやらないかということで、それからニューヨークでの活動が始まったんです。
石城
ああ、そうですか。
南谷
1961年から何回か個展をやって、それが成功だったわけですよ。
いいコレクターやニューヨークの近代美術館などが買ってくれましてね。
左 作品59−40 アルフレッド・バー・ジュニアが購入
右 作品59−42 ニューヨーク近代美術館が購入
だけど何回か個展をやっているうちに、みんないいと褒めてくれるけれども、書のことなんかわからないで、ただ絵として鑑賞してるんじゃないか、ということをつくづく感じたんです。
そこで、書というものを紹介しなきゃいけないということで、今度は講演を始めたんです、大学が主なんですけど。
石城
ああ、講演ですか。
南谷
2、30の大学を回りましたかね。
どこでもとても喜んでくれました。
講演の原稿などもその画廊の主人が翻訳してくれたんですがね、スライドを使って書の歴史の講演をしたんです。
しかし講演だけではだめだということになってね、実際に教えだしたわけですよ。
それまでにも、サンフランシスコの図案学校などで教えましたけれど、大抵は有閑夫人などが多くてね。
そこで今度はアーティストに限るということにしたんです。
ニューヨークの第一線の現役作家に古碑帖の臨書をさせることが目的だったんですよ。
前回にもちょっとお話したと思いますが、だいたい3ヶ月、週一回教えたんです。
その時の映画なども撮ってありますけど。
石城
そうですか、今度是非拝見させてください。
南谷
ええ。それで教える時間は少ないんですが、一番最初は基本点画・筆順などから始めましてね、古典に移るわけです。
現在活動している絵描きの作品の中に書の筆意が表われていたりするのを見ると、非常に嬉しいですね。
石城
そうですよね。
南谷
たとえば、ニューヨークで今盛んに活動している絵描きでレイモンド・パーカーという人が最近送ってくれた作品の線の中に、やはり書の線が表われているんですね。
これなんですけど、これ筆使ってないんです。
最近の彼の作風は油絵具のチューブのまま描くんですけどね、この辺の線の動きね、腕がよく働いていて、意先筆後になってますよ。
石城
なるほど。おいくつぐらいの方なんですか。
南谷
50いくつですかね、まだ若いですよ。
だから油絵具のチューブで書いても、こういうふうに筆意があるんですね。
これを見て非常にうれしかったですね。
石城
先ほど個展から教えたというお話でしたが、法帖を臨書するというようなことも含まれているわけですか。
南谷
もちろんです。
私の字は教えないんです、みんな法帖ですよ。
しかし最初、基本点画や楷書の筆順、結構法などの原則的な指導では、私の手本を用いなければなりません。
この時に運筆法を重点的に指導します。
それが終わると、法帖の臨書に移るわけですが、まず唐の楷書、漢隷、篆、古文と遡り、行、草や飛白なども教え、最後は大字作品や、自運の真似ごとまでさせます。
中国系や日系の画家などの中には書を習った人たちもいましてね、こういう人はむしろ私には苦手なんです。
ですから教える時は、まずそのクセを直してから正しい用筆法を教えなきゃならない。
でもうっかりすると、また前のクセが出てくる。
指先の小細工で書くようなものがね。
それをまた直す、だからかえって暇がかかるんですね。
ちょうど、畑の雑草を抜いたり木の根っこを掘り起こしたりして耕して、そこへ何か植えるでしょ、そうするとそこへまた雑草がはえてくる、前の種がこぼれてるからね、それと同じじゃないですか。
石城
なるほど、面白いたとえですね。
南谷
ところが他の外国人には何もないんです。
雑草のような変なものがはえないし、アーティストばかりですから、美術の素養、つまり土壌がいいんですね。
植え付けたものがみんなよく育つ。
古典なんかも、十分ではないだろうけど、純粋に取り入れてくれるんですね。
石城
何ごとによらず、純粋であるということは、教える方も教わる方も楽ですよね。
南谷
ですからいろんな臨書にしても、好き勝手にやってますけどなかなかうまいですよ。
アメリカでの活動の詳細は、南谷オフィシャルサイトのレポートをごらんください。
南谷オフィシャルサイト英語版はこちらです。