「シリーズ・書の古典」の最終配本(全6冊)が始まりました。
第一回配本は「魏晋唐楷書小品(ぎ・しん・とう かいしょ しょうかい)」と「李嶠詩 嵯峨天皇(りきょうし さがてんのう)」です。
「魏晋唐楷書小品」は、テキストシリーズの「王羲之・献之楷書」「魏晋小楷集」「墓誌銘2」から厳選した人気の名品に加え、テキストシリーズにはなかった顔真卿の「中字麻姑仙壇記」が入っています。
「魏晋唐楷書小品」の内容
①鍾繇「宣示表(宋拓鼎帖)」
②鍾繇「薦季直表(真賞斎帖)」
③王羲之「楽毅論(餘清齋帖)」
④王羲之「黄庭経(趙孟頫旧蔵宋拓本)」
⑤王羲之「東方朔画賛(餘清齋帖)」
⑥王羲之「孝女曹娥碑(宋拓鼎帖+宣和秘閣本)」
⑦王献之「洛神賦(玉版十三行)」
⑧張玄墓誌銘
⑨顔真卿「中字麻姑仙壇記(忠義堂帖)」
ご存知のように、書の歴史の中で、正式書体は「篆書→隷書→楷書」の順に変遷しました。
楷書が成立したのは三世紀中葉以前で、その時代に書かれたのが①「宣示表」と②「薦季直表」です。
詳細な解説ならびに「字形と筆順」は書籍「魏晋唐楷書小品」をご覧ください。
①鍾繇(しょうよう)「宣示表(せんじひょう)」。
鍾繇(151〜230)は、三国魏の人。
楷書にすぐれ、後漢の張芝(ちょうし)の草書と並び称されました。
「宣示表」は魏の文帝にたてまつった上奏文です。
字形はゆったりとしていて、古い時代の趣が豊かに残っています。
②鍾繇(しょうよう)「薦季直表(せんきちょくひょう)」
これも皇帝への上奏文です。
末行に「黄初二年(221)」の署名があり、これを信じれば、鍾繇が71歳のときの書です。
本文に歴史的事実と異なる点があり、偽作説も唱えられましたが、「宣示表」よりさらに風韻の高い、魅力あふれる作です。
③王羲之(おうぎし)「楽毅論(がっきろん)」
三国時代、魏の夏侯玄が著した戦国時代の将軍、楽毅の人物を論じた文章で、唐以前から有名でした。
いろいろな摸本が作られましたが、本書には「餘清齋帖」に刻されたものがおさめられています。
この帖の由緒正しい摸本が日本に伝わり、光明皇后が744年に臨書したとされる名作が奈良の正倉院に残っています。
「餘清齋帖」本は線が生き生きとしており、光明皇后の臨書と筆意が似ていることから、原跡にもっとも近いと言われています。
④王羲之「黄庭経(こうていきょう)」
慣行に従って「きょう」と読みましたが、ただしくは「けい」。
不老長生を得るための養生法を説いた道教の経典です。
文章構造から「四字成文本」と「七字成文本」があります。
本書に収めたのは「七字成文本」の中でもっとも優れている「趙孟頫旧蔵本」。
テキストシリーズ「羲之・献之楷書」所収のものとは別本です。
⑤王羲之「東方朔画賛(とうぼうさくがさん)」
前漢の武帝に仕えた東方朔という奇人の画像賛を王羲之が小楷で書いたもの。
餘清齋帖からとりました。
⑥王羲之「孝女曹娥碑(こうじょそうがひ)」
溺死した父・曹盱(そうく)を求めて娘の曹娥が江水に身を投じ、五日を経て屍を抱いて浮かび上がったというその孝心をたたえた文章です。
③から⑥まではすべて王羲之の小楷作品です。
書風はそれぞれに特徴があり、王羲之の表現の幅が広いことがわかります。
⑦王献之(おうけんし)「洛神賦(らくしんふ)」
王献之は王羲之の7番目の男子。
献之はほぼ羲之の書風を追っていますが、羲之の高雅さに対し、豪放でやや放縦な書を多く残しています。
この文は魏の曹植の作で、王献之は好んで書いたといわれます。
全文870余字で、中間の十三行だけが伝えられています。
⑧「張玄墓誌銘(ちょうげんぼしめい)」
字(あざな)によって「張黒女墓誌銘」とも呼ばれる北魏時代の墓誌銘です。
北碑の楷書に見られがちな、いわゆる寒険の風は感じられず、筆致の強い中にも温和で古雅な風趣をたたえています。
テキストシリーズとは別の原本から、より精細な復元をしました。
⑨顔真卿(がんしんけい)「中字麻姑仙壇記(ちゅうじまこせんだんき)」
「麻姑仙壇記」には大字・中字・小字があり、これは「中字」です。
原本は比田井天来旧蔵「忠義堂帖」。
往(ゆ)かんとして既(すんで)のところで止(とど)めるこの舌足らずさに何ともいとおしさを覚えるのである。(編者・小林翠径先生の解説より)
「魏晋唐楷書小品」(シリーズ・書の古典)には、以上九種が掲載されています。
以前は複製の際の製版を印刷会社に依頼していましたが、パソコンで行えるようになり、研究を重ねた結果、より満足できる、臨書手本にふさわしい仕上がりになりました。
豊富な骨書、字形と筆順、現代語訳、臨書にふさわしい部分の紹介など、充実した内容となっています。
本書によって、小字楷書の名品を、こころゆくまで味わってください。
同時発売の「李嶠詩」は唐の詩人、李嶠(644〜712)の詠物五言律詩120首を書写したもので、欧陽詢によく似た緊張感あふれる名品です。
「季節に映ることば」に、作品に書きたいことばをご紹介していますので、こちらもご参照ください。