比田井天来愛用の文房具の中に、変わった形の筆があります。

 

軸が細いのに、穂の部分が極端に太い筆。穂首には金網が巻かれ、その先から筆管の真ん中あたりまで植物の蔓のようなものが巻かれています。

 

持ってみると、予想外に持ちやすく、構えると重心が下にあるので安定した運筆ができます。

 

銘は「雲平造」。

 

滋賀県にある「攀桂堂」に初めてうかがったのは、もう30年近く前のことです。滋賀県の琵琶湖にほど近い安曇川町で、創業四百年になる今も、代々雲平を名乗り、父子相伝で伝統の筆づくりを続けています。

 

上の写真は、1995年に発行したビデオ(現DVD)「書・二十世紀の巨匠たち 第一巻・謙慎書道会の作家」のエンディングです。筆師十五世雲平さん(写真手前)の筆づくりを中心にして、時々ご子息に目をやる父上(写真奥)の姿をとらえています。

 

江戸時代から四百年もの間、受け継がれてきた光景。静かな昼下がり、毛先を揃える手板の音だけが響きます。

 

さて、冒頭の天来愛用筆は十三世雲平さんがつくったものです。これを復元していただいたのが「大朴」(上の写真)。信じられないほど手間がかかった筆です。

十三世当時使用されたのは純山馬と黒天尾(黒馬の毛)と鹿。複製当時は山馬が入手困難なので、他の二種で調整しました。

 

一般には、練り混ぜなどの過程を経た穂首を軸に据えますが、ここでは竹を割って穂首を差し込みます(左)。差し込んだ部分を麻糸でくくります。

 

麻糸でくくった部分に和紙を巻き(上から三本目)、中着せという毛を巻いて糸でくくり(右端)、さらに和紙を幾重にも巻き付けます。

 

そして真鍮の針金を編み

 

幾重にも和紙を巻き

 

その上に籐(とう)という植物のつるを隙間なく巻き付けて完成です。

動画はこちら。4分半の動画で、2分過ぎた頃から筆づくりが始まります。

 

なんて美しい筆なのでしょう! これなら穂首が抜けるなんてことはありえませんね。

右が「大朴(小)」で、左は「筆龍兼毫(小)」。

 

雲平筆は父子相伝なので、ご子息が続けてくれないと断絶してしまいます。心配ですね?

でも大丈夫。ご子息の藤野純一さんが、十六世雲平となるべく修行中。現在は次の世代の雲平父子が、四百年変わらない風景を見せてくれています。

ちなみに、書道テレビの「筆を変えると作品も変わる?」の最後に、「未来の巨匠」藤野純一さんの映像をご紹介していますよ。

 

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