2003年秋、「巨匠愛用筆」という企画がありました。

期間限定で、明治から大正時代の書家や文学者など53名が愛用し、現在も販売されている筆をご紹介しました。

今日はその中からいくつかご紹介しましょう。

 

まずは、画家、藤田嗣治が愛用した筆です。

九段南の筆墨店「平安堂」さんの「稀印」というイタチの毛の筆。その後、インターネットの「書道テレビ」でも紹介してくださいました。

 

 

続いて与謝野晶子です。

スラリとした、柳葉形の筆で、イタチの毛が使われています。九段下の玉川堂さんの「あさつゆ」という筆です。

「私は肥えた字よりも細りした字が好きである。『俗馬、肉多し』と云うように、肥え過ぎた字は殊に嫌いである。細りしたと云っても痩せ過ぎて貧相なのは好まない。それから如何に善い書体でも読みにくいまでにくずして書いた字は好まない。字は必ず一面に実用性を備えていて欲しい。この意味で私は王羲之、智永、褚遂良、蔡邕、虞世南などの法帖を時時に眺めて楽み、特に此の諸家の楷行二体を敬重している。…近年は暇があると聖教序を習っている…少しでも羲之に刺激せられて、まずい我流の細い字体に品位と深味と潤いとを生み出したいと願うのである。」(与謝野晶子)

 

上は歌巻「倚欄集」の巻頭の部分。昭和十三年、晶子、六十一歳の書です。(『漢字かな交じり書の名品』より)

 

 

それに対して、ぽっちゃりした筆を好んだ人もいました。

 

若山牧水

 

若山牧水の愛用筆です。

 

上の筆で書いたかどうかはわかりませんが、肥痩のリズムにあふれたあたたかい線ですね。

 

 

ちょっと変わった形状の筆では

これ、河東碧梧桐が愛用した筆です。

 

技巧にとらわれない自由な書を目指した碧梧桐。筆にも自由さを求めたのかもしれません。

 

 

 

比田井天来の師、日下部鳴鶴愛用の長鋒羊毛筆です。

 

廻腕法という筆法です。

 

 

最後に、日比野五鳳先生の愛用筆。

どれもふっくらとした形の筆です。

 

日比野五鳳先生の代表作のひとつ「赤とんぼ」。

先生は晩年にかけて、自己の美意識の根底は王朝ではなく、生まれ故郷の〝岐阜のタニシ〟にある、とおっしゃったそうですが、素朴であたたかい作品です。

 

 

以上、巨匠愛用筆の一部をご紹介しました。

作品画像は、弊社刊『漢字かな交じり書の名品』所収のものです。

 

最後に、天来書院筆のセールは9月30日午後6時まで。

ただし、今回ご紹介した筆は買えません。ごめんなさい。

 

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