前回に続き、輪島が生んだ国宝級の沈金師の作品をご紹介します。今回は菊の花を描いたパネルです。菊の花が自然に開花するのは10月20日頃~12月20日頃。例年はこれから11月にかけて各地で菊や菊人形の展示会、菊まつりなどが行なわれますが、今年は残念なことに自粛により中止が多いようです。

旧暦の9月9日は重陽の節句。今年はそれが今月の26日にあたります。3月3日の上巳の節句や5月5日の端午の節句と同じ五節句の一つとのこと。
この重陽の節句の主役は菊。菊の花を生けたり、菊の香りを移した菊酒を飲んで不老長寿を願ってきました。その為、別名「菊の節句」ともよばれるようです。しかし乍ら、新暦に変わると9月9日が菊の季節と合わなくなり、五節句の中では認知度が低くなっているのが現状です。

作品は全て点彫り(ノミで表面に穴を彫る)。そこに金や銀他の金属粉を擦り込み絵を表現しています。一体、幾つの穴を彫ったのでしょう?
部分的に数えてみました。大きな花弁で大凡600の点があります。花一輪では大凡40,000弱。パネル全体では20万前後でしょうか。それも、ほぼ同じ大きさで。本当、根気勝負ですね。よく見ると花弁が重なり合う境界線は刷り込む金属粉の色を微妙に変えています。そうすることで、奥行きと立体感を創出しています。花にもボリュームがあり、全体として凄く雰囲気のある逸品です。古典的な「輪島塗り」の範疇を大きく超えていますね。

このパネルを家のリビングに飾ると、部屋自体がグレードアップしたような雰囲気を醸し出すのが不思議です。勿論、これは錯覚かも知れません。