宝石箱の続きです。こちらは蒔絵ではなく、沈金(ノミや小刀で表面を彫り、金や銀の粉末を擦り込んで模様を描く加飾法)の作品です。作家は日展理事や現代工芸美術家協会の常務理事を歴任された輪島塗りを代表する作家の1人でした。

私が最も尊敬する作家です。3年前に98歳で他界されましたが、直前まで創作活動を続けられていました。日展から現代工芸に移られた為、人間国宝にはなりませんでしたが、日展に残られていれば人間国宝になられていたと思います。

彼の作品の特徴は、金や銀以外に複数の金属粉(パール粉という)を使い、点彫り(無数の点を彫り金属粉を擦り込み)で表現した模様と淡い色を多用する点です。その独特の色彩は本人の名字にカラーを付け「◯◯カラー」とよばれていた程です。

作者は輪島塗りの沈金で人間国宝になった前大峰の弟子でした。弟子入りした数年はひたすら点や線彫りの練習をさせられたそうです。ノミや小刀で大中小の点や線を永遠に彫り続ける。修行から大中小の点や線をそれぞれ同じ大きさに彫れるよう技術を習得。
後に独立した際、弟子達には同じ要領で『(大中小の点や線を)10,000回彫っても点は同じ大きさ、線は同じ幅になるように』と指導は厳しかったそうです。

作品は無数の点の集合体で複数の淡い色の模様を作る。それがグラデーションになっています。正に「◯◯カラー」の世界です。

これが輪島塗りと聞いて驚かれる人が多いのではないでしようか?しかも、半世紀も前に作られたとは。美しく圧倒的な存在感があります。
この中にブランドの時計や指輪、ネックレスを入れても、入れ物が負けることは無さそうです。