今回は蓋の上に鮮やかな海棠が描かれた宝石箱。前回、ご案内していた女性向けの作品です。「これが輪島塗り?」と疑ってしまう作品とはどんなものなのか?と思われた方も多くいらっしゃったかと思います。

前回の棗シリーズでご覧頂いたように古くから続く輪島塗は絵を金で描き、一部分に螺鈿を鏤めて加飾するものが主流でした。それに対して、この作品の絵は今迄には使われなかった青や緑、桃色の顔料を透き漆に混ぜ、極めて鮮やかに且つ大胆に絵を描いています。

箱の中にはトレイが2つあり、内部を3段に重ねて使うことが出来ます。女流作家の作品につき、優しい形状に加え、宝石箱の用途や必要な収納量を経験から理解していたのだと思います。

この作品、40年以上前に作られたものです。とてもそうは見えません。今でも新鮮さが失せていないのは、優れたデザインと色彩によるものだと思います。

新たな色彩を得て輪島塗の表現領域を広げる挑戦が成された作品の一つだと思います。

写真はこの作品の作家の自宅でした(今は人手に渡ったようです)。海に出る坂道の1番上にあります。庭の裏手には茶室があり、海が見下ろせます。

実は私の祖父:忠兵衛の生家があった場所でもあります。祖父は体重が50㎏もない細身故に冬の日本海から吹き付ける西風に我慢が出来ず町中に引越したと聞きました。

海好きの私にはそれが理解出来ず。子供の頃にその話しを聞いて以降は、海に行く度に羨ましく眺めて通った次第です。