小学生で習った童謡「虫の声」。その中に5匹の虫が出てきます。最初に「リンリン、リンリン」と歌われたのがこの松虫でした。秋の夜長、虫達がお互い競争でもしているかのように奏でる音色を思い出します。

大きさは鈴虫よりもひと回り大きく体色は淡褐色。子供の頃、実際に飼ってみると鈴虫のような優しい鳴き声ではありませんでした。こんな身体でどうやってこんなに大きな声を出せるのか?と不思議に思うくらい。流石に家族から『声が大き過ぎて眠れない』と言われ、渋々採ってきた草叢に帰してあげた憶えがあります。

日本人は虫の鳴き声を受け入れることが出来る民族らしいのですが、やはりそれも一定以上の大きさになると西欧人同様に「雑音」になってしまうようです。

今回の作品は平棗。塗りは溜塗りといい、朱色の漆を塗った上に飴色の透明な漆を塗り仕上げます。朱印と透き通った漆の二層が重なり、奥行き感を出し上品さを引き立てます。また、草に付いた露をプラチナで表現しています。

この作者の棗シリーズは今回が最後です。他にも何種類かあったのですが個展にて販売済みです。いずれも30年から40年前に作られた作品で実家に長期保管(在庫として新品未使用)されていたのをご覧頂きました。お付き合い頂きありがとうございました。

次回からは女性向けの輪島塗を幾つかご紹介致します。中にはこれが輪島塗?と疑ってしまう作品が出てきます。乞うご期待願います。