「天来先生の求める筆を作りたい」
2019年、仿古堂は創業120週年を迎え、これは奇しくも比田井天来没後80年と重なります。
この記念すべき年に、仿古堂は天来の書業を支えてきた愛用筆の復刻に着手しました。
比田井天来
仿古堂に伝わる天来愛用筆
純羊毛でありながら、硬さの異なる毛を何種類も配合し、絶妙にずらしたその作り。
復刻にあたっての作業はまさに、当時の職人からの挑戦です。
長きにわたる努力の結果、高い再現性を誇る逸品がついに完成しました。
古典臨書から創作まで、あらゆる表現を追求可能な万能性。
「比田井天来が求めた筆」の復活です。
サイズは大・小2種類
・天来清玩(大) サイズ:穂径11×穂長53×全長258(mm)
定価12,000円+税
材質:羊毛
用途:漢字臨書・作品向き。半紙2字、半切2〜3行。
・天来清玩(小) サイズ:穂径9×穂長46×全長247(mm)
定価8,000円+税
材質:羊毛
用途:漢字臨書・作品向き。半紙2〜6字、半切2〜3行。
大・小を両方同時にご購入の場合のみ、紙箱入りでお届け致します。
おすすめポイント
▶短鋒で腰があり扱いやすく、純羊毛の筆を使い慣れていない方にもおすすめです。
▶線は重厚かつ豊かで、木簡や古隷、北魏の楷書などの素朴で力強い表現に適します。
▶弾力があり穂先がよく開閉するため、『温泉銘』や顔真卿の書など躍動的で堂々たる造形も得意とします。
素朴で素直な使い心地
次の方々に、実際に使って頂きました(五十音順)。
・高橋蒼石先生(師=比田井南谷/毎日書道会審査会員/書宗院理事長,日本書人連盟常任総務)
・中原志軒先生(師=宇野雪村/毎日書道会理事・審査会員/奎星会会長)
・山中翠谷先生(師=手島右卿/毎日書道会総務・審査会員/独立書人団常務理事・事務局長)
●高橋蒼石先生
書宗院代表・高橋蒼石先生は、2019/8/11 書宗院展の揮毫会席上にて使って下さいました。
書き上がった作品です(使用サイズ:大)。
古典への理解と鍛錬に高い水準を求められるこの会ならではの、風雅な雰囲気を自然と漂わせています。
そしてご覧の通りの豊かな渇筆。
この線の表情は、これまでに先生が使用して来られた無数の筆の中で、天来清玩が最も出しやすく、そういった点が今回の揮毫会に使用する筆として選んだ理由とのこと。
古に仿(なら)うこと、新たな表現を追求すること、そのどちらも受け止めてくれる懐の深い筆のようです。
●中原志軒先生
前衛書を追究している奎星会代表・中原先生。
前衛書と古典臨書。
意外な組み合わせですが、実は前衛書は古典臨書による鍛錬が欠かせないものなのだそうです。
また普段は長鋒の羊毛筆をお使いになることが多いそうなので、今回、短鋒である天来清玩をお使い頂いての臨書をお願いするにあたり、どのような作品を頂けるのか非常に楽しみでしたが、やはり見事な臨書作品を書いて下さいました。
左:木簡(サイズ=大を使用) 右:温泉銘(サイズ=小を使用)
「書を学ぶ人が初めて手にする羊毛筆がこの筆であってほしい」という気持ちを素直に先生にお話したところ、それを受けて文章も書いて下さいました。
小説家の三浦綾子さんが習字を習い始めた小学生の頃のことを書いています。
「筆というものを私はどのように使ったらいいのか、全く見当がつかなかった。初めてスキーに乗った時のような、自信のない、ひどく不安定な気持ちだった。」
ここには三浦さんを困らせた頼りなさに潜む筆の特質がのぞいています。逆に不安定だからこそ表現できる微妙な線質。緩急、潤渇、抑揚等々。筆を媒体として現れたのは自分の姿。筆はその穂先をすり減らしながら心の様を恐いほど正直に白い紙に定着させます。
良い筆の条件は「尖、斉、円、健」とされ、四徳と呼ばれます。形状とともに、切れ味鋭く、よく整い、豊かに書けて、腰があり長持ちすること。万能は難しいが、その各々のバランスで筆の特徴は決まるのでしょう。
今回の「天来清玩」の妙味は、羊毛、短鋒にありそうです。うかがえば異なる硬さの毛を絶妙に配合して作られたとか。羊毛は含墨が良く、画宣紙への筆触が適度な弾力を持ちます。柔らかさの中に勁(つよ)さが込められること。開閉、撚転、弾力を掌中にして、筆は複雑な表現にたえて美につながろうとします。
また短鋒だけに扱いやすいのも初学者には心強く、半紙、半切によく適いそうです。筆管は品良く、持った時のバランスも心地よい。高古雄建の天来先生の名を冠するに恥じないと確信します。
厚く豊かな線が引け、弾力的で旺盛な筆の活動が容易という点では、木簡、古隷には似つかわしい。爨宝子碑もいい。太宗温泉銘なども堂々とした造形美に加担してくれるだろう。顔真卿ら筆圧派にも魅力的です。
学書者の机辺に置かれ、長く愛用せられることをお奨め致します。
●山中翠谷先生
少字数書が印象的な独立書人団・山中先生。
普段は羊毛の長鋒をお使いになるそうで、今回使用をお願いした短鋒の天来清玩ではお受け頂けるか不安でしたが、快諾を下さり、思わず見惚れるような、たっぷりと力のみなぎる臨書作品をたくさん書いて下さいました。
木簡隷から行草まで、様々な書体を楽しむかのように自由自在に使いこなしていらっしゃいます。
使い心地に関しては、やはり短鋒であることからの扱いやすさを強調されています。
また「含蓄のある重厚な線が描きやすく、筆の開閉がとてもしやすいので大胆な線が書け、心の開放感が味わえる。」とのことです。
左:文皇哀冊 右:始平公造像記
木簡
左:姨母帖 右:張遷碑
薦季直表
西狭頌
ご協力下さいました先生方、ありがとうございました。
比田井天来が愛用したものと同じ作りの筆を、その遺伝子を継いだ現代の書家たちがごく自然に使って見せて下さったことに、まさに「仿古銘筆」の真髄を感じ取った思いです。
この筆は限定生産品です。
大切に使えば一生モノといわれる羊毛筆。その中でも最高品質の筆がこの価格で手に入れられる機会も珍しいのではないでしょうか。ぜひお求め下さい。