2014年4月 8日

書を学ぶための書物(3)──書道全集など

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今回は「書道全集」関連の書物を紹介します。
考えてみれば、過去の書かれた文字の姿を一覧する、というのは壮大なプランです。ここにはある「歴史観」が反映されるはずですが、「書道全集」は観賞用としても手本的な使い方も可能です。1セットは置いておきたいものです。代表的なものを紹介します。

●『書道全集』(平凡社 1954-1968)
すでに新刊としては売られていませんが、現在でも、もっともなじみのある全集でしょう。中国・殷代から始まって日本の明治・大正、そして刊行中に中国で新発見された書跡を収めた「補遺」までほぼ時代順の構成で、全26巻。これに中国・印譜、日本・印譜(+索引)が別冊としてついています。図版のみならず、神田喜一郎、小川環樹、白川静、宮崎市定、家永三郎、尾上八郎(柴舟)など錚々たる約100人の執筆者による図版解説や研究論文が充実しており、書道史理解のための基本的な文献ばかりです。というより、現在の書道史の理解の基本的な方向性がこの全集に体現されている、という方がいいでしょうか。
現在、古書値は非常に安く、容易に入手できます。
『書道全集』は平凡社から戦前にも刊行されており、こちらは当時日本の「版図」であった朝鮮半島の書跡が含まれています。また平凡社からは新しい図版などを中心に編まれた『中国書道全集』(1986)が出されています。いずれにしろまず始めに参照すべきものとして、戦後版の全集は必携でしょう。

●『書道藝術』(中央公論社 1975-1977)
これは「全集」とは題されていませんが、書人を軸にした一種の全集で、中国は王羲之・王献之から始まって鄧石如・何紹基・趙之謙まで、日本は聖徳太子からは良寛までの全20巻(別巻1-4あり)。監修に井上靖や川端康成、白洲正子の名前があります。責任編集は中田勇次郎。その名前が冠された書跡を網羅する構成になっているので、一つひとつの作品が比較的たっぷり紹介されています。日本の古筆は伝称筆者でまとめられているため(「伝紀貫之」など)、戸惑うこともあります。巻頭に掲載された主に文学者による「書人の伝記」が読みごたえがあります。

●『ヴィジュアル書芸術全集』(雄山閣出版 1991-1993)
西林昭一の監修で、殷代から清末まで中国書道史を全10巻の構成で記述したもの(第10巻は文房具)。1990年代の時点での新発見の図版が充実しており、たとえば草書や楷書の成立時期など、新研究にもとづいて作品の位置づけが更新されています。解説の本文が明快で平易なのも特徴で、読み物として通読にも適しています。

●『書の日本史』(平凡社 1975)
日本史を書の切り口で概観する、というもの。飛鳥/奈良から明治/大正/昭和までの時代順の構成(最終巻は古文書入門/花押・印章総覧)の全9巻。時代の書跡をテーマごとに概観する論文と〈人と書〉という図版ページで構成されています。名のある書人ではない、武家・政治家や文学者の筆跡が収められているのが特徴。「墨書土器」「紙背文書」「文書のかたちと折り方」「朝鮮の古文書」といったほかでは読めない論文が貴重です。平安中心の書道史を相対化する視点のためには最適です。監修は坂本太郎・竹内理三・堀江知彦。

また河出書房からは『定本書道全集』(1954-1956)が刊行されており、解説の記述が書家の視点で書かれています。これにしか収録されていない図版や論考などもあります。

書道全集のほかにも通史として書道史の流れを概観したい、という目的のための書物も数多く刊行されています。

●『決定版 中国書道史』『決定版 日本書道史』(芸術新聞社 2009)
作品図版を軸に時代順の構成でコンパクトに書道史の流れをつかむことができます。中国版の監修は角井博、日本版は名児耶明。年表や地図が多用され、また「複製技術のいろいろ」「伝称筆者とは」などのコラムを多数収録。

このほかにも
●国士舘大学書道研究室編『大学書道 中国篇』(天来書院 2011)
●大東文化大学書道研究所編 玉村霽山執筆『書道テキスト 中国書道史』(2011 二玄社)
●大東文化大学書道研究所編 古谷稔執筆『同 日本書道史』(2010 二玄社)
などがあります。こうした通史の入門書はほかにも多数刊行されており、個人の立場を強く打ち出した通史として、

●石川九楊『中国書史』(京都大学学術出版会 1996)
●伏見冲敬『書の歴史』(二玄社 新訂版2012)

など。読み比べることで、書道全集にしろ、通史にしろ、「書道史」の不動の「正史」というものがあるわけではなく、時代の思潮などによって書の歴史の記述にも複数の立場がありうる、ということが理解されます。
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