「故郷」への道 その4

 はさみ.jpg録音は終了した。やがて自宅に仮に編集したCDが送られてきた。期待と不安。これを聴くには勇気を要した。なかなか良いな、と思ったところもあった。逆に不満足な箇所もあった。問題点を詳細に書き出したリストを作り、録音エンジニアのオリヴァーに送った。

  

   結局ハノーファにある彼の家へ行くことになって、そこの仕事場で一つ一つの問題を解いていった。他のテイクが使用できないかの判断である。私があまりにも音程を細かく気にするので、しまいに彼はこう言った、「人は音程を聞くんじゃ無くて、音楽を聞くんだよ!」。

    長時間の、神経を集中する作業は、結果として驚くほどの成果につながった。邪魔をする箇所が掃除されて、歌の良いところが前面に出てきた感じだ。全体の印象は大変良くなった。

  最初の録音は9曲、さらに何ヶ月かあとに2回目の週末セッションを組み10曲を収録した。その間に挟まった夏の帰国では、CD製作・発売のめどもつけた。
    次に待っていた作業は曲の配列だった。同じような調子が続かないように、また自然な流れになるように。とくに気を使ったのはある曲の終わりと次の曲の始まりが音楽的に美しい関連を持つかだった。これは主に調の関係に左右される。「最終和音と次の冒頭が共通音をもって、しかも違う調である」などというのが理想的である。これによって見事な効果になった箇所がある。思わずニヤリとしてしまう。一曲ごとの曲名を書いた細長いカードをつくり、何度も並べ変え、ピアノのところへ走っては音のつながりを確認して、またカードのところへ戻る、というようなことを繰り返した。


 曲と曲の間の空白時間も一定にせず、前後関係によってかなり時間を変え、秒単位で指定した。これには前後の曲のテンポなどが影響する。 速い曲のあとに、遅い静かな曲が来るような場合は、かなり時間を空けた方がいいようだ。いっぽう勢いにのって、ほとんど間を開けずにサッと次に行った方がよいこともある。これらの決定のため、ストップウオッチを手に持ちながら、私の感覚が命じる一番良いタイミングを測った。このように間合いの取り方を熟考した経験は、後にリサイタルで沢山の曲を続けて歌う時にたいへん役立った。


  ブックレットなどの印刷物の文面はこちらで作って、データを日本に送り、逆にデザインなどを送ってもらい、ドイツで検討した。こういうのはインターネット時代の恩恵と思った。こうして、長い期間を要したが、初めてのソロアルバムを完成させることが出来た。 (続く)

*実際にはさみを使って録音を編集することはありません(笑)。

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