2010年10月22日

墨場必携:訳詩 近現代詩 コスモス

          
3コスモス.jpg                                      20.10.3 埼玉県所沢市

   「十月の顔」     北原白秋『邪宗門』所収

   顔なほ赤し......うち曇り黄ばめる夕[ゆふべ]、
   『十月[じふぐわつ]』は熱を病[や]みしか、疲れしか、
   濁れる河岸[かし]の磨硝子[すりがらす]脊に凭りかかり、
   霧の中[うち]、入日[いりひ]のあとの河[かは]の面[も]を
                             ただうち眺む。

   そことなき櫂[かい]のうれひの音[ね]の刻[きざ]み......
   涙のしづく......頬にもまたゆるきなげきや......

   ややありて麪包[パン]の破片[かけら]を手にも取り、
   さは冷やかに噛みしめて、来[きた]るべき日の
   味もなき悲しきゆめをおもふとき......

   なほもまた廉[やす]き石油の香[か]に噎[むせ]び、
   腐れちらぼふ骸炭[コオクス]に足も汚ごれて、
   小蒸汽[こじやうき]の灰[はひ]ばみ過ぎし船腹[ふなばら]に
   一きは赤く輝やきしかの窻枠[まどわく]を忍ぶとき......

   月光[つきかげ]ははやもさめざめ......涙さめざめ......
   十月[じふぐわつ]の暮れし片頬[かたほ]を
   ほのかにもうつしいだしぬ。

          
22コスモス1.jpg                                     22.9.22 埼玉県所沢市

   「垣根の外」   野口雨情

    秋晴れの
    垣根に咲いた
    コスモスよ

    人なつかしい 桃色の
    淡いこころの
    コスモスよ

    若い女が しよんぼりと
    垣根の外で
    唄つてる

    恋は悲し
    コスモスの花よと
    唄つてる

         
6コスモス多2.jpg                                      22.10.6 埼玉県所沢市



   「洪水の跡」   野口雨情『雨情民謡百篇』所収

   洪水の跡に
   コスモス咲き

   赤い蜻蛉[とんぼ]が
   とまつてゐる

   赤い蜻蛉よ
   旅人は
   どこまで行つた


23赤とんぼ.jpg                        22.10.23 東京都清瀬市


「おけらの唄」より抜粋   野口雨情

    まぼろし草も
    コスモスも
    花は昔の
    ままで咲く

          
6コスモス白.jpg                                       20.10.6 埼玉県所沢市



【文例】 唱歌・童謡

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