2010年8月 4日

墨場必携:訳詩 近現代詩 蝉 向日葵 夏木立




2野原.jpg                                       22.8.2 東京都清瀬市

 「かなかな蝉」   野口雨情『別後』所収

   初恋[はつごひ]でせう 背戸山で
   かなかな蝉が
   鳴いてます

   別れて遠き君ゆゑに
   「別れました」と
   言ひました

   初恋でせう 背戸山で
   かなかな蝉が
   鳴いてます。



 「思ひ出」(その二十六)  北原白秋『思ひ出 抒情小曲集』所収

  二十六

   蝉も鳴く、ひと日ひねもす、
   「かなし、かなし、ああかなし、今日[けふ]なほひとり。」

         
1百合3.jpg                                       22.8.1 東京都清瀬市


 「驟雨前」より6聯のうち第5聯   北原白秋『邪宗門』所収

   生騒[なまさや]ぎ野をひとわたり。
   とある枝[え]に蝉は寝おびれ、
   ぢと嘆き、鳴きも落つれば
   洞[ほら]円[まろ]き橋台[はしだい]のをち、
   はつかにも断[き]れし雲間に
   月黄ばみ、病める笑ひす。


 「夏の夜に覚めてみた夢」 石川啄木『在りし日の歌』所収

   眠らうとして目をば閉ぢると
   真ッ暗なグランドの上に
   その日昼みた野球のナインの
   ユニホームばかりほのかに白く----

   ナインは各々守備位置にあり
   狡[ずる]さうなピッチャは相も変らず
   お調子者のセカンドは
   相も変らぬお調子ぶりの

   扨[さて]、待つてゐるヒットは出なく
   やれやれと思つてゐると
   ナインも打者も悉[ことごと]く消え
   人ッ子一人ゐはしないグランドは

   忽[たちま]ち暑い真昼のグランド
   グランド繞[めぐ]るポプラ並木は
   蒼々として葉をひるがへし
   ひときはつづく蝉しぐれ
   やれやれと思つてゐるうち......眠[ね]た

          
30蝉4.jpg                                       22.7.30 東京都清瀬市


 「夏の日の歌」 中原中也『山羊の歌』所収

   青い空は動かない、
   雲片[ぎれ]一つあるでない。
     夏の真昼の静かには
     タールの光も清くなる。

   夏の空には何かがある、
   いぢらしく思はせる何かがある、
     焦げて図太い向日葵[ひまはり]が
     田舎の駅には咲いてゐる。

   上手に子供を育てゆく、
   母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
     山の近くを走る時。

   山の近くを走りながら、
   母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
     夏の真昼の暑い時。

         
2向日葵2.jpg                                       22.8.1 東京都清瀬市


 「園中」 与謝野晶子

   蓼[たで]枯れて茎猶[なほ]紅[あか]し、
   竹さへも秋に黄ばみぬ。
   園[その]の路[みち]草に隠れて、
   草の露昼も乾かず。
   咲き残るダリアの花の
   泣く如く花粉をこぼす。
   童部[わらはべ]よ、追ふことなかれ、
   向日葵[ひまはり]の実を食[は]む小鳥。

          
ガン子ちゃん2.jpg
          
















ガン子ちゃん3.jpg         がん子ちゃん

     ラーメン屋さん「がんてつ」の近所に住んでいます。
     家族の引っ越しにひとりだけ置いて行かれました。
     アクシデントだったのか、置き去りだったのか。
     御近所が不憫がって面倒を見てくれて、もう数年とのこと。
     おっとりと人懐こいがん子ちゃんを見ると、今もそれなりに
     幸せに暮らしているようです。



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