2010年6月20日

墨場必携:和歌 五月雨



このたびは梅雨の時期にちなんで「さみだれ」の特集です。今回は平安末から鎌倉・室町期から御紹介しています。雨の歌については、連載第12回第36回第60回(近世のみ)にも文例があります。併せて御利用下さい。
よく知られた表記「五月雨」のほかに、以下の文例では「梅雨」も「さみだれ」に当てて用いています。

          
紫陽花3.jpg                                            22.6.13 東京都清瀬市

  五月雨に はなたちばなの かをる夜は
  月すむ秋も さもあらばあれ
                    崇徳院「千載和歌集」176

  五月雨に あささはぬま(浅沢沼)の 花かつみ
  かつ見るままに かくれゆくかな
                    藤原顕仲朝臣「千載和歌集」180
  ※花かつみ(菖蒲の仲間)と「かつ見る」の「かつみ」、同音反復を楽しむ歌。

          
10花菖蒲2.jpg                                            22.6.10 東京都清瀬市

  五月雨に 小田のしめなは ふりはへて
  ながき日ぐらし 早苗とるなり
               「院四十五番歌合(1215年)」26
  ※早苗とる:田植えするの意

          
5稲6.jpg                                            22.6.5 東京都志木市

  五月雨の雲の晴まを待ちえても
  月みる程の夜は(夜半)ぞすくなき
               「内裏百番歌合(1216年)」46

  つれもなき月を待つとて時鳥[ほととぎす]
  なく(鳴く)はなみだ(涙)の五月雨の空
               「院御歌合(1247年)」59

  人しれずまたれしものを
  梅雨[さみだれ]の空にふりぬる時鳥[ほととぎす]かな
               「院御歌合(1247年)」61

  庭にちる花たちばなの梅雨[さみだれ]に
  声はしをれぬ時鳥[ほととぎす]かな
               「院御歌合(1247年)」77

          
12花菖蒲5.jpg                                 花菖蒲 22.6.12 東京都東久留米市北山公園


  やみぬ(止みぬ)とて 出づるも ふかき雲なれば
  後[のち]さへ暗し 五月雨の空
               「百首歌合(1256年)」1063

  いかにせむ うき(憂き)には空を見しものを
  くもりはてぬる五月雨の比[ころ]
               「百首歌合(1256年)」1037

  あま雲の上ゆく月のます鏡
  みぬめのうらの五月雨の比[ころ]
               「宗尊親王百五十番歌合(1261年)」120

  緑こき(濃き)をち(遠方)の山端[やまのは]晴れそめて
  雲たちのぼる五月雨の空
               「仙洞五十番歌合(1303年)」40

          
12花菖蒲7.jpg                                 花菖蒲 22.6.12 東京都東久留米市北山公園

  軒菖蒲

  五月雨は あやめにすかく(巣掛く)ささがにの
  糸さへながき軒の玉水
                   正徹「草根集」2434
  ※ささがに:「細 (ささ)蟹」は蜘蛛のこと。

  水鶏[くひな]

  夜をかさね水鶏ぞたたく天の戸も
  とぢたる雲の五月雨の比[ころ]
                   正徹「草根集」2442
  ※水鶏:水辺の鳥。古来「鳴く」ことを「叩く」と表現し、戸を叩く、
      人を訪うなどの内容を含む歌に点景として詠まれた。

          
21水鶏.jpg                                        水鶏  22.2.21 東京都清瀬市

  五月雨

  道の辺[へ]や 人もかよはぬ五月雨の
  空に行き来の 雲ぞ ひま[隙]なき
                   正徹「草根集」2517

  五月雨

  天の川今ぞ八十瀬[やそせ]にあまるとも
  いさ しら波の落つる五月雨
                   正徹「草根集」2518
  ※第四句 いさ:さあそれは知らない。
         感知しないという言い方で、否定的態度を示す語。

  五月雨

  晴るるにも降るにもあらぬ浮雲も
  身を中空の五月雨の比[ころ]
                   正徹「草根集」2520
  五月雨

  夕ま暮 雲まのみどりかつ見るは
  月にぞまさる五月雨の空
                   正徹「草根集」2523

          
2カルガモ親子.jpg                                      カルガモ親子 22.6.2 東京都清瀬市

  五月雨

  池はらふ 風の立葉も下折れぬ
  蓮のいとの さみだれのころ
                   正徹「草根集」2525

  五月雨

  ふる日をば 中中いはず(なかなか言わず)
  晴れやらで くもるをいとふ五月雨の比[ころ]
                   正徹「草根集」2527

  五月雨

  五月雨はむら雲いでて くらき夜の
  北にながるる 星のかげかな
                   正徹「草根集」2545

          
6紫陽花山.jpg                                            22.6.6 東京都清瀬市

  梅雨

  五月雨の晴行く雲を
  かづらきの山人のみや よそに見るらん
                   正徹「草根集」2567
  ※かづらきの山人:葛城の仙人

  梅雨

  雪と見し 花にたがひて
  梅がえ(枝)の 実を紅に そむる雨かな
                   正徹「草根集」2569

          
サビー.jpg                         "晴レ間ヲ 待ッテ オ散歩ニ  来マシタ 
                  下ハ 濡レテテ 座リタクナイノ"


【文例】 散文

同じカテゴリの記事一覧