2009年8月 3日

墨場必携:和歌 賀茂真淵 他

  吹く風の心は常にあらめども
  夏こそ人にしたしまれけれ
                     賀茂真淵『賀茂翁家集』
 

  なつかしき夏とはなりぬ
  野べは今 さきいづる花の色にかをりに
                    阪正臣「正臣歌集」『樅屋全集』三

               
  夏
  何ごとをなすも日かげの長くして
  夏はよきときすてがたきとき
                    阪正臣「正臣歌集」『樅屋全集』三

  夏草
  とこなつのさかりのそのに咲きまじる
  あをいろすずし月草のはな
                    阪正臣「樅屋詠草」『樅屋全集』三

       
20nohara.jpg                                          21.7.20 東京都清瀬市


  夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを
  雲のいづこに月宿るらむ
                     清原深養父『古今和歌集』166


  すずしさにうたたねすれば 程もなく
  はしゐながらに明くる夏の夜
                      本居宣長『鈴屋百首歌』四


  つつめども隠れぬものは
  夏虫の身よりあまれる思ひなりけり
                     『大和物語』『後撰和歌集』
  ※夏虫:夏に見られる昆虫の総称で広く用いられる。この歌では螢。


  ふるさとのみかきが原の夏草に
  よるはもえつつ飛ぶ螢かな      
                     賀茂真淵『賀茂翁家集』


  空高くほたるをさそふ夕風の
  身にしむまでになれる夏かな
                     賀茂真淵『賀茂翁家集』


  夕闇にしのぶの露も顕れて
  軒端すずしくとふ螢かな
                    本居宣長『鈴屋歌集』一之巻
 

  蘆[あし]しげみ葉うらにすがる夏虫の
  かくれてもほの見ゆる光は
                   上田秋成『藤簍冊子(つづらぶみ)』


  陽炎[かげろふ]のもゆる夏野の沢水に
  よるたつ影は螢なりけり
                     香川景樹『桂園一枝』


  夏花
  やみの夜もほたるのかげに照らされて
  のべに花さく月見草かな
                   阪正臣「ちたのはぐさ二」『樅屋全集』二 

         
26tsukimi.jpg                                             21.7.26 東京都清瀬市



hasu2.jpg                                             19.7.31 東京都東村山市

 
  蓮葉のにごりに染まぬこころもて
  なにかは露を玉とあざむく
                   遍昭『古今和歌集』165
  

  しじに生ふる池の蓮[はちす]の花見れば
  風も吹かなくに心すずしも
                     『天降言』田安宗武


  なべて世のにごりにそまで
  住む人の友と見るべき花ぞこの花                     
   「藤原濱臣が泊洦舎(ささなみのや)にて蓮(はちす)を見る辞」より  
                     『うけらが花』巻七 橘千蔭


  はちす葉の上とのみやはあだにみむ
  露こそ人の世のたぐひなれ
                     『琴後集』村田春海


  池水のこころきよさもあらはれつ
  濁りにしまぬ花のさかりは
                     『琴後集』村田春海


  影うつす池の鏡の清ければ
  葉がくれにさく花もみえけり
                     『琴後集』村田春海


  しづまれる華うごかして
  夕蛙 はす咲く池をとびくぐるかな
                     『志濃夫廼舎歌集』橘曙覧


  ありときくむねの蓮[はちす]も
  池水[いけみづ]のにごりにしめるみにはひらけず
                     『六帖詠草』小澤蘆庵


  いまよりの夕月[ゆふづき]かげに
  いかばかり涼しかるらん池の蓮葉[はちすば]
                     『亮亮遺稿』上 木下幸文

  いかばかり涼しき池のこころより
  かかる蓮[はちす]の花はさくらむ
                     『亮亮遺稿』上 木下幸文

  月影はとくもこの間を離れなん
  蓮[はちす]の上の玉の数見ん
                     『亮亮遺稿』上 木下幸文

  雨中蓮
  紅のにほひやあせむ蓮のはな
  つぼみにかへれ雨のふるまは

  池水のにごりにしまぬ花ぞとも
  しらでやあめのふりあらふらむ
                   阪正臣「樅園詠草」『樅屋全集』二

  寄蓮恋
  目にはみてをられぬ水の花はちす
  かくこそありけれ我が思ふ子も
                   阪正臣「蛙侶吟稿」『樅屋全集』二


【文例】 散文

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