2009年8月 3日

墨場必携:訳詩 近現代詩


30翡翠.jpg                                 翡翠(かわせみ)  21.7.30 東京都清瀬市

  朝顔    山村暮鳥

    瞬間とは
    かうもたふといものであらうか
    一りんの朝顔よ
    二日頃の月が出ている


  宵待草    竹久夢二

    まてどくらせどこぬひとを
    宵待草のやるせなさ

    こよひは月もでぬさうな。


20matsuyoi.jpg                        待宵草 21.7.20 東京都清瀬市 


  月見草    草野心平

    地球の日ぐるるを待ちて爆発する花よ。
    聖十字の。
    徹夜してもゆる焰よ。


  スイカズラ    渋谷定輔

    夏の日のひるすぎ
    飢えたおれの腹に
    食い入るように しみる
    清快なスイカヅラの花のにおいよ

    麦刈りに疲れたおれは
    その香りとともに
    また一つ
    新しい
    生命を発見した

       
hasu1.jpg                                          19.7.31 東京都東村山市

  池のほとりの小品    金子光晴

   一、誕生

    まだ明けきらぬ池のおもてに、こまやかにふりこめる霧雨のなか、
    うちからのめざめに、仄暗い水のうへの、白蓮は、割れる。

    花びらの開く音は浮くさをわたり、
    うつうつと眠る燈心草を誘ひ、
    沢潟[おもだか]や河骨[かうほね]のあひだをくぐつて、
    こだまをひきつれてまたかへつてくる。

    こだまがこだまを返すやうに、
    あちらから、こちらからきこえる音。しばらくは、
    水が咲かせる開花の清さ、明るさ、にぎやかさ。


  花   大江満雄

    あそこに
    いま まっしろい 浜木綿の花が咲いている

    あの花の そばに
    波が たえまなく 打ちよせている。

    あの花を
    わたしが いちばん よく識っている といいたくなる。

    あの花は
    わたしを知らないのに。

         
30cho1.jpg                                            21.7.30 東京都清瀬市

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