2009年3月15日

墨場必携:散文 書簡文範


 ・卒業をいはふ文
     『筆のゆきかひ』(書簡文範・関根正直文 阪正臣書 明治26年)
         
図版上段1.jpg         
図版中段2.jpg         
図版下段3.jpg                                           阪正臣 書  
   [釈文]
       たをやめながらも雄々し
       き志をたて、をぢ君に
       ともなはれてみさとに上
       り、このふせ庵にいり来
       まして、わが父を保證
       人とたのみ、淑徳女学校に
       入りたまひしは、猶この
       ごろとおぼえたるを、はや
       くも六かへりの春秋を経
       てこゝにその学業を
       卒(を)へたまへりといふ。いとも
       めでたき、いともよろこばし
       き御しらせにあひぬる今日
       の日は、そも如何なるよき
       日ぞ。わがちゝはゝとおのれ
       とのうれしさにひきくらべ
       ても、君がうみのおやぎみ
       たちの御こゝろは推し
       はからるゝなり。さて今より
       は国べゝかへりたまはむか、
       京(みやこ)にとゞまり給はむか、
       賢夫人となりたまはむか、
       良教師となりたまは
       むか、御目的のほどはいま
       だ得(え)うかゞはねど、君をし
       て美玉たらしめむと
       する天の御心はいまゝでの学
       業上にあらずして、このゝ
       ちの世路難(せいろかたき)にあるなら
       むとおもはる。さばれ(=サはアレ)君
       こそはいかなる難にあ
       ひたまふともはじめのをゝ
       しかりし御志のまにゝゝ
       おしつらぬきたまふ人
       ならめと信じまゐらせて
       よろこばしさのあまりに
       よしなきくりごとをさへも
       とりそへていはひまゐらす
       るに奉(たてまつら)む。あなかしこ。

        
15啓翁桜2.jpg                                      啓翁桜 21.3.15 東京都清瀬市

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