2009年3月15日

第54回 前途洋々春の如し

第54回【目次】         
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    * 和歌
    * 散文(書簡文範ほか)  
    * 唱歌・童謡
    * みやとひたち
12momo.jpg                                           桃 21.3.12 東京都清瀬市


  常に新しいといふこと      田山花袋

   新しさに向かつて波打つ心は、どんなにいろいろなものを浮かび上がらせる
  だらう。そこには自分ばかりが味はふやうにできてゐる楽しさもあれば、限り
  知られぬ不可思議に対する恐ろしさもある。美しい花も咲いてゐると同時に、
  凄まじい嵐も潜んでゐる。暗い影もある。麗しい光もある。絢爛な更紗模様に
  似た美しい人の情もあれば、絵具をそのままそこにあけたやうな若い心の姿も
  ある。新しさといふことの楽しさ、それを思つただけでも、誰でもの心が微
 (かす)かにふるへずにはゐられないでせう。
   何も考へるには及ばない。何も恐れるには及ばない。新しさといふ心の旗と
  真面目さといふ意志の剣とをかざしてゐさへすれば、それで何も憂へることは
  ないのである。前途は洋々として春の如しである。
   新しさからあらゆることが始まる。新しさには力がある。湧出しても湧出し
  ても尽きない力がある。常に新しければ、常に心が活動してゐる。決して倦怠
  を覚えない。古人が、汚れたら衣を洗ふやうに常に心を選択することが必用で
  あるといつたのもそれである。私は常に新しいといふことを祝福したい。


      
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  新しさを素朴に信仰し、そこに活力の源と前途への希望とを見ています。そう感じ、考えた田山花袋は明治の自然主義の作家でした。

  三月も半ば、学校は卒業式の時期、またさまざまの場所で門出の季節です。桜の春を目前に、新しい道に踏み出す新しい人々に幸多かれと祈ります。
  
     
莟saku.jpg                                        桜の蕾 21.3.7 東京都清瀬市
 
 この度の文例は、和歌には主に旅立ちと別れの歌を、唱歌・童謡には卒業の時期に因んで学校生活の歌を挙げました。

【文例】 和歌





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