2008年12月 1日

第47回 澄みゆく季節:行く秋・新嘗祭・初冬

第47回【目次】
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    * 漢詩
    * 和歌
    * 唱歌・童謡
    * みやとひたち






第47回 澄みゆく季節:行く秋・澄む水・新嘗祭・初冬


1 時の旅人

29hi2.jpg                                          20.11.29 東京都清瀬市金山緑地公園

  道しらばたづねもゆかむ
  もみぢ葉を幣[ぬさ]と手向[たむ]けて秋は去[い]にけり
  (もし秋の行方が分かるなら訪ねても行きたいものを。美しく紅葉した木々の葉を
   山の神への手向け物にして、秋は行ってしまった。)
                        凡河内躬恒『古今和歌集』313

  
28hi.jpg                                         20.11.28 東京都清瀬市金山緑地公園

   『古今和歌集』の巻第五(秋歌下)の最後の歌です。幣(ぬさ)とは神への捧げ物。物としては紙や布帛です。紙も布も太古にはそれ自体が貴重品だったことをもの語りますが、この歌が詠まれた平安の世においては、実質的な貢ぎ物というのではなく、神への真心を示すしるしとして残っていた習俗です。旅に出るような時、その無事安全を祈願して氏神や旅先ゆかりの神に幣を奉るのは古来からの習わしでした。ここでは秋を擬人化して時間を行く旅人に見立てました。去りゆくにつけて、山の神に紅葉を幣として奉り、山を彩った幣も散り行く今、秋はもう本当に行ってしまったのだなあと慨嘆しているのです。

29hi7.jpg                                        20.11.29 東京都清瀬市金山緑地公園

  各地の名所の紅葉の便りもほとんど聞き果てました。街なかの公園にはまだ鮮やかな木々もあるとは言え、足許の枯れ葉の方がすっかりかさを増して来ました。木の葉が少なくなった枝々に小鳥の姿がよく見えるようになりました。冬になりましたね。

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29hi11.jpg  26hi.jpg                                      20.11.29 東京都清瀬市金山緑地公園
  
2 新穀を捧げて

  初冬の色に空の澄んで来る11月23日勤労感謝の日は、大戦前までは新嘗祭(にいなめのまつり・しんじょうさい)の祭日でした。

  採[と]る手もたゆき 山田の早苗
  ゆたけき秋の たのみもしるし

  わづかにのこる 門田のいねを
  苅るまで残れ 夕日のかげも    註:「かげ」は影、光。

  ことしの稲の 初穂をとりて
  新嘗[にいなめ]つかへ 神をぞまつる

    「瑞穂(みづほ)」(『小学唱歌集 第三編』明治17年:1884  作詞者未詳)

  天皇が新穀を神に捧げ、自らも食され、また人々にも下されるという稲作儀礼です。春の早い頃に五穀豊穣を祈願して行われる祈年祭(としごいのまつり・きねんさい)に相対するもので、その年の収穫に感謝し、引き続いての繁栄を祈念するお祭りです。重要な祭祀として天皇家に継承され、今でも毎年23日には宮中で儀式が執り行われています。

19hi4.jpg                                        20.11.19 志木市敷島神社

  新嘗祭の起源は飛鳥時代にさかのぼると言われます。現在は11月23日に固定されていますが、律令では陰暦11月の中の卯の日(月の2回目の卯の日)が決まりで、明治5年に改暦されるまではこの通りの時期に行われていました。陰暦11月といえばおよそ今の12月。新嘗祭は本来は現在の日取りの約一ヶ月後に来る行事だったのです。中の卯の日というと、日付に直すと早ければ13日、最も遅ければ24日の範囲になります。これを現行暦に置くと、今年は12月10日〜21日の間になります。一年の収穫の感謝というには、秋の実りの時期から離れすぎている気が致します。

 
30hi.jpg                                              20.11.30 東京都清瀬市

  さて、この時期を季節の指標である二十四節気の進行で眺めると、この陰暦11月中旬には冬至が廻ってくることが分かります。一年で最も夜が長く昼が短い日。言い換えれば、太陽の力が最も弱まり、また力を取り戻し始める日です。新嘗祭がこの中の卯の日という時期に行われたのには、これが冬至とほぼ重なる時期であることと関係があるのであろうという説があります。

21hi3.jpg                                        20.11.21 東京都清瀬市金山緑地公園

29hi9,jpg                                        20.11.29 東京都清瀬市金山緑地公園

  太陽神天照大神の末裔である天皇が自ら新穀を食すことが、太陽の復活の契機になると位置づけられれば、この説は説得力のあるものになるでしょう。

 
19hi.jpg                                        20.11.28 東京都清瀬市金山緑地公園

  寒さが増し、夜は早くなる一方です。日々太陽の衰える季節を過ごすうちには、農耕民族である古代の日本人が切に太陽の復活を祈ったのは想像に難くありません。

 
21hi2.jpg                                           20.11.21 東京都清瀬市柳瀬川

【文例】 漢文

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