2008年3月15日

墨場必携:近現代詩・訳詞 イタリアの古歌より...

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[近現代詩・訳詞]

・春は一年の若き時、若き時は一生の春
    イタリアの古歌より抜粋 :訳 上田敏


・手折れよ薔薇を、花咲くひまに。
 今日が明日ある世でもなし
    ドイツの古歌より抜粋:訳 上田敏


                      カーテン登り中

・ただ若き日を惜しめ  佐藤春夫

    勧君莫惜金褸衣
    勧君須惜少年時
    花開堪折直須折
    莫待無花空折枝
          社秋娘
綾にしき何をか惜[を]しむ
惜しめただ君若き日を
いざた折[を]れ花よかりせば
ためらはば折りて花なし
           『車塵集』


・音[ね]に啼く鳥  佐藤春夫

    檻草結同心
    将以遺知音
    春愁正断絶
    春鳥復哀吟
        薛濤
ま垣の草をゆひ結び
なさけ知る人にしるべせむ
春のうれひのきはまりて
春の鳥こそ音にも啼け
           『車塵集』


・小諸なる古城のほとり  島崎藤村

小諸なる古城のほとり
雲白く遊子悲しむ
緑なす繁縷[はこべ]は萌えず
若草も藉くによしなし
しろがねの衾の岡辺
日に溶けて淡雪流る

あたたかき光はあれど
野に満つる香も知らず
浅くのみ春は霞みて
麦の色はつかに青し
旅人の群はいくつか
畠中の道を急ぎぬ

暮れゆけば浅間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて
草枕しばし慰む



・鶯の頌(冒頭部分抜粋)  野口米次郎

たつた一つの歌の創造者よ、
お前は勝利を、狂気を、芸術をいつも同じ言葉で語る......
何といふ神秘だ。
私はお前より余分な歌や夢を二つ三つ持つてゐる、
だが、私は歌はない前から慄[おのの]き、躊躇する......
悲しいかな、私の言葉は私の命を奉じない。
お前は歌を突進させる......何といふ不注意な態度だ。
空中へ歌ひのけ、その歌をけろりと忘れてしまふ......如何にも
   お前は豪気だ。
お前は、歌の順番を待つてゐる他のものどもを考慮しない。
お前は歌ひ歌ひ、自分の歌だけの路を推しすすめる、
(他の鳥や詩人は気の毒なものだ、)
ああ、何といふ愉快な野蛮の一行為であらう。


・胡蝶  八木重吉

へんぽんと ひるがへり かけり
胡蝶は そらに まひのぼる
ゆくてさだめし ゆゑならず
ゆくて かがやく ゆゑならず
ただ ひたすらに かけりゆく
ああ ましろき 胡蝶
みずや みずや ああ かけりゆく
ゆくてもしらず とももあらず
ひとすぢに ひとすぢに
あくがれの ほそくふるふ 銀糸をあへぐ


・歩行  尾崎翠

おもかげをわすれかねつつ
こころかなしきときは
ひとりあゆみて
おもひを野に捨てよ

おもかげをわすれかねつつ
こころくるしきときは
風とともにあゆみて
おもかげを風にあたへよ
    『アップルパイの午後』昭和4年(1929)


【文例】 唱歌・童謡

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