季節に映ることば
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愛のフランス詩

比田井和子

今回ご紹介するのは、フランスの詩です。

愛と恋、きらめくような自然の美しさ、機知に富んだことば。

今まであまり取り上げられていないフランス詩のことばを使って、書の作品を書いてみませんか?

 

今回は詩全体ではなく、作品におすすめの部分を選んでみました。

掲載した詩はすべて、詩人でありフランス文学研究者でもある吉田加南子先生の翻訳です。

書籍『愛のフランス詩集』(吉田加南子編・訳)には、詩の全体が掲載されています。

愛する心、恋人を想う気持ちは、全人類同じはず。
でも、「愛」を表現するそのことばは、国によって、民族によって異なります。
異なっているからこそ、私たちは異国の詩に触発され、気づかなかったことを発見し、そして新たな心で未来に立ち向かっていける。

日本の伝統的な歌は、直接的な表現よりも、象徴的な言い方を好みます。
でも、フランスの詩は、心に直接響くことばによって、愛を歌います。

ほら、こんなふうに。

愛の詩

私の歌は行ってしまうでしょう やさしく そっと
あなたのこんなにも美しい苑生(そのう)へと
私の歌に翼(つばさ)が
鳥のような翼がもしあるのなら
 「私の歌は行ってしまうでしょう」 ヴィクトル・ユゴー


こんなにも激しく君のことを夢に見た
こんなに歩いた こんなに語った
こんなにも君の影を愛した
僕にはだからもう残っていない 君のわずかなかけらさえ
 「最後の詩」 ロベール・デスノス


あなたの思い出は愛する本のよう
たえることなく繙(ひもと)かれ 閉じることは決してない
 「あなたの思い出は愛する本のよう」 アルベール・サマン


ミラボー橋の下セーヌは流れる
    そして私たちの恋も
  思い起こさなければらない
喜びはいつも苦しみのあとに来たのだった と

  夜よ来い 鐘(かね)よ鳴れ
  日々は去りゆき 私は残る
 「ミラボー橋(ばし)」 ギョーム・アポリネール


底も知れぬ永遠が
その目のなかで微(ほほ)笑(え)んでいた
 「シダリーズたち」 ジェラール・ド・ネルヴァル

続いて、自然を歌った詩です。きらめくようなことばや、幻想の世界。

まずは、今を盛りと咲き誇る薔薇の詩です。

自然のきらめき

おまえが見える 薔薇 わずかに開かれた本よ
細かに記された幸福の頁を
かくも多く持つ本 誰も決して
読むことのない本 魔術師である本
 「『薔薇』より」 ライナー=マリア・リルケ


花びらには優美さが そして愛が休らっている
庭を 木々を 香りで燻(た)きしめて
 「ソネ」 ピエール・ド・ロンサール


水は映(うつ)し出す 眠りのなかでのように
苔(こけ)の金色の先端に降りて来た青く澄んだ空を
 「平和は静かな森に」 フランシス・ジャム


花の一輪一輪は自然の中で咲きひらく魂(たましい)だ
 「黄金詩篇」 ジェラール・ド・ネルヴァル


音と香りが夕暮れの空をめぐっている
憂愁のワルツよ ものうい眩惑(めまい)よ
 「夕(ゆうべ)の諧調(かいちょう)」 シャルル・ボードレール


そして金色の星々は 限りない群れとなって
あるいは声高(こわだか)に あるいは小声で 千もの諧和(かいわ)を奏でつつ
語っていた 燃える冠(かんむり)をかたむけて
 「恍惚(こうこつ)」 ヴィクトル・ユゴー


空ではぼくの星たちが優しい衣(きぬ)ずれの音をさせていた
 「わが放浪」 アルチュール・ランボー


広くおだやかな
安らぎが
大空から
降りてくるかのようだ
月は高く虹のように輝いて……
今こそは 妙なる時
 「白い月の光が」 ポール・ヴェルレーヌ


笑いたまえ 春の小枝が揺(ゆ)れさざめくように
泣きたまえ 北風や岸に打ち寄せる波のように
 「スタンス」 ジャン・モレアス


月の爪(つめ)がまた生(は)えてくる。
 「新月」 ジュール・ルナール


ひとり浜辺に腰をおろして
大きな獅子(しし)は持ちあげる
澄んだ水平線に向かって
 青銅の足を
 「ヴェネツィア」 アルフレッド・ド・ミュッセ


青空の裾の、白鳥の羽のようなわずかばかりの煙。それは旅をしている天使たち。
 「雄鶏(おんどり)と真珠(しんじゅ)」 マックス・ジャコブ

最後は、人生の一瞬を閉じ込めた、珠玉のことば。
鮮やかに映し出される心の風景です。

心の風景

こうして希望を花と咲かせて
思い出は静かに死んでゆく
 「逍遥(しょうよう)」 アルフレッド・ド・ミュッセ


私達が眠らないのは夜明けを待っているからだ
 「明日(あす)」 ロベール・デスモス


時は去りゆく 夜も昼も
休むことなく とどまることなく
あまりにもひそやかな足取りなので
いつも止まっているかのよう
 「時は去りゆく」 ギョーム・ド・ロリス


また見つかった
何が 永遠が
それは 太陽と共に
行ってしまった海
 「永遠」 アルチュール・ランボー


そして言葉の力によって
ぼくは再び生きはじめる
ぼくは生まれた おまえを知るため
おまえを名づけるために
自由よ
 「自由」 ポール・エリュアール

     
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