季節に映ることば
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故郷となつかしい歌

第8回:比田井和子

灼熱の太陽がわずかにやわらぎ、透明な空気が少しずつ、私たちのまわりに漂うようになりました。

今回は、なつかしい童謡唱歌の中から、秋や故郷、思い出、そして海をテーマにご紹介します。

太陽が少しだけやさしくなったとはいえ、日中はやっぱり厳しい厚さ。でも、西の空に陽が沈み、涼しい風が吹いてくると、どこからともなく虫の声が聞こえてきます。やがて夜の帳が降りる頃には、いろんな虫たちの大合唱が始まります。

虫のこえ

一 あれ松虫が鳴いている。
 ちんちろちんちろ ちんちろりん。
 あれ鈴虫も鳴きだした。
 りんりんりんりん、りいんりん。
 秋の夜長(よなが)を鳴き通す
 ああおもしろい虫のこえ。

二 きりきりきりきり きりぎりす。
 がちゃがちゃがちゃがちゃ くつわ虫。
 あとから馬おい おいついて
 ちょんちょんちょんちょん すいっちょん。
 秋の夜長を鳴き通す
 ああおもしろい虫のこえ。


故郷の空   大和田建樹

夕空はれて、あきかぜふき
つきかげ落ちて、鈴虫鳴く
思えば遠し 故郷の空
ああ、わが父母、いかにおわす

すみゆく水に 秋萩(あきはぎ)たれ
玉なす露(つゆ)は すすきにみつ
おもえば似たり 故郷の野辺(のべ)
ああ わが兄弟(はらから) たれと遊ぶ


故郷の廃家 犬童球渓

一 幾年(いくとせ)ふるさと、来てみれば、
 咲く花鳴く鳥、そよぐ風、
 門辺(かどべ)の小川の、ささやきも、
 なれにし昔に、変らねど、
 あれたる我家(わがいえ)に、
 住む人絶えてなく。

二 昔を語るか、そよぐ風、
 昔をうつすか、澄める水、
 朝夕かたみに、手をとりて、
 遊びし友人(ともびと)、いまいずこ、
 さびしき故郷(ふるさと)や、
 さびしき我家(わがいえ)や


旅愁 犬童球渓

一 更け行く秋の夜、旅の空の、
 わびしき思いに、ひとりなやむ。
 恋しやふるさと、なつかし父母、
 夢じにたどるは、故郷(さと)の家路(いえじ)。
 更け行く秋の夜、旅の空の、
 わびしき思いに、ひとりなやむ。

二 窓うつ嵐に、夢もやぶれ、
 遥(はる)けき彼方(かなた)に、こころ迷う。
 恋しやふるさと、なつかし父母、
 思いに浮かぶは、杜(もり)のこずえ。
 窓うつ嵐に、夢もやぶれ、
 遥けき彼方に、心まよう。


故郷を離るる歌 吉丸一昌

一 園の小百合、撫子(なでしこ)、垣根の千草。
 今日は汝(なれ)をながむる最終(おわり)の日なり。
 おもえば涙、膝(ひざ)をひたす、さらば故郷(ふるさと)。
 さらば故郷、さらば故郷、故郷さらば。

二 つくし摘みし岡辺よ、社(やしろ)の森よ。
 小鮒(こぶな)釣りし小川よ、柳の土手よ。
 別るる我を憐(あわれ)と見よ、さらば故郷。
 さらば故郷、さらば故郷、故郷さらば。

三 此処(ここ)に立ちて、さらばと、別(わかれ)を告げん。
 山の蔭の故郷(ふるさと)、静(しずか)に眠れ。
 夕日は落ちて、たそがれたり、さらば故郷。
 さらば故郷、さらば故郷、故郷さらば。

故郷を思う時、子供の頃の記憶がよみがえります。仲間たちと夢中で過ごした楽しい時間、なつかしい家族のこと、そして一人ぽっちの切ない思い出。

この道  北原白秋

この道はいつか来た道、
ああ、そうだよ、
あかしやの花が咲いてる。

あの丘はいつか見た丘、
ああ、そうだよ、
ほら、白い時計台だよ。

この道はいつか来た道、
ああ、そうだよ、
お母さまと馬車で行ったよ。

あの雲もいつか見た雲、
ああそうだよ、
山査子(さんざし)の枝も垂(た)れてる。


あの町この町  野口雨情

あの町、この町、
日が暮れる 日が暮れる。
今きたこの道、
かえりゃんせ かえりゃんせ。

お家がだんだん、
遠くなる 遠くなる。
今きたこの道、
かえりゃんせ かえりゃんせ。

お空にゆうべの、
星が出る 星が出る。
今きたこの道、
かえりゃんせ かえりゃんせ。


叱られて  清水かつら

叱られて
叱られて
あの子は町まで お使いに
この子は坊やを ねんねしな
夕べさみしい 村はずれ
こんときつねが なきゃせぬか

叱られて
叱られて
口には出さねど 眼(め)になみだ
二人のお里は あの山を
越(こ)えてあなたの 花のむら
ほんに花見は いつのこと

今でこそ、泳ぐのはプールですが、私が子どもの頃は海水浴が主流でした。青い空と入道雲、熱い砂浜を走って飛び込んだ海。夏の思い出は、やっぱり海。



一 松原遠く消ゆるところ
 白帆(しらほ)の影は浮かぶ。
 干網(ほしあみ)浜に高くして、
 鴎(かもめ)は低く波に飛ぶ。
  見よ昼の海。
  見よ昼の海。

二 島山闇(やみ)に著(しる)きあたり、
 漁火(いさりび) 光(ひかり)淡(あわ)し。
 寄る波岸に緩(ゆる)くして、
 浦風(うらかぜ)軽(かろ)く沙(いさご)吹く、
  見よ夜の海。
  見よ夜の海。


砂山  北原白秋

海は荒海(あらうみ)、
向うは佐渡(さど)よ。
すずめ啼け啼け、もう日は暮れた。
みんな呼べ呼べ、お星さま出たぞ。

暮れりゃ、砂山、
汐鳴(しおなり)ばかり。
すずめちりぢり、また風荒れる。
みんなちりぢり、もう誰も見えぬ。

かえろかえろよ、
茱萸原(ぐみわら)わけて。
すずめさよなら、さよなら、あした。
海よさよなら、さよなら、あした。


浜辺の歌  林古渓

一、あした浜辺を さまよえば
 昔のことぞ しのばるる。
 風の音よ 雲のさまよ、
 よする波も かいの色も。

二、 ゆうべ浜辺を もとおれば、
 昔の人ぞ 忍ばるる。
 寄する波よ かえす波よ。
 月の色も 星のかげも。


浜千鳥  鹿島鳴秋

 青い月夜の 浜辺には、
 親を探して 鳴く鳥が、
 波の国から 生まれでる。
 濡(ぬ)れたつばさの 銀の色。

 夜鳴く鳥の 悲しさは、
 親を尋ねて 海こえて、
 月夜の国へ 消えてゆく。
 銀のつばさの 浜千鳥。


やしの実  島崎藤村

一、 名も知らぬ 遠き島より
 流れ寄る 椰子の実一つ
 故郷(ふるさと)の岸を離れて
 汝(なれ)は そも波に幾月(いくつき)

二、 もとの木は 生(お)いや茂れる
 枝はなお 影をやなせる
 われもまた 渚(なぎさ)を枕
 孤身(ひとりみ)の 浮寝(うきね)の旅ぞ

三、 実をとりて 胸にあつれば
 新(あらた)なり 流離(りゅうり)の憂(うれい)
 海の日の 沈むを見れば
 たぎり落つ 異郷(いきょう)の涙

 思いやる 八重(やえ)の汐々(しおじお)
 いずれの日にか 国に帰らん

2017年9月8日
     
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