2011年5月 4日

墨場必携:漢詩 餞春 首夏の詩

    
27姫林檎4272.jpg                                 クラブアップル 23.4.27 東京都清瀬市

   餞春    松本奎堂

     欲迹春歸處
     問春春不語
     流水與落花
     悠然背人去

      春の帰る処を迹(たづ)ねんと欲し
      春に問ふも春語らず
      流水と落花と
      悠然として人に背きて去る

      春はどこへ行ってしまうのかと
      春に尋ねても 春は答えない
      流れる水と 散る花とが
      悠然として 人を見すてて行ってしまう

   
24クラブアップル42461.jpg
                                 クラブアップル 23.4.24 東京都清瀬市



   暮春郊行    江村北海

     菜花黄半謝
     隴麥綠如雲
     野雉驚人起
     春煙一道分

      菜花(さいか)黄(き)半ば謝し
      隴麥(ろうばく)緑 雲の如し
      野雉(やち)人に驚きて起こり
      春煙一道分かつ

      黄色の菜花も半ばは散り
      隴(うね)なす麦は緑が雲のようだ
      野の雉子は人に驚いて飛び立ち
      春霞の中に一筋の道がくっきりと浮かぶ

    
51雉子.jpg                                         雉子 23.5.1 東京都清瀬市



   夏意     賴支峰

     嫩荷粘水水盈池
     喜得園居與夏宜
     隔樹殘鶯猶喚友
     破苔新筍又生兒
     疏簾微雨眠醒後
     吟榻薫風茶熟時
     時掃晴窗手磨墨
     綠陰坐改餞春詩
    
      嫩荷(どんか)水に粘(はりつ)きて水池に盈(み)ち
      喜び得たり園居(えんきよ)夏と宜しきを
      樹を隔つ残鶯(ざんあう)は猶ほ友を喚び
      苔を破る新筍は又た児(じ)を生ず
      疏簾(それん)の微雨(びう)眠(ねむり)醒めし後
      吟榻(ぎんたふ)の薫風(くんぷう)茶熟す時
      時に晴窓を掃ひて手づから墨を磨(ま)し
      綠陰(りよくいん)坐(そぞ)ろに改む餞春の詩

     吟榻:詩を考案するのに寝そべっている長椅子・寝台の類。

      若い蓮の葉は水面に貼り付いたように水は池に満ち
      嬉しいことに別荘は夏にふさわしい
      樹の向こうで鳴く季節外れの鶯は なおも友を呼び
      苔を破って出てくる筍は また新しい児(こ)を生え出だす
      簾に降りかかる雨は 眠りの醒めたのち
      吟榻に吹きくる薫風は 茶のたった時
      時に明るい窓辺に向かって手づから墨をすり
      緑の葉陰に春を餞(おく)る詩を改める

    
27姫林檎4271.jpg                                 クラブアップル 23.4.27 東京都清瀬市


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