2011年4月29日

墨場必携:漢詩 花時天似醉 島田忠臣

    24八重桜424八幡稲荷.jpg                        八重桜 23.4.24 埼玉県所沢市

   「花時天似醉(花の時 天酔へるに似たり)」
                   島田忠臣

    春風何處不開花
    萬井皆紅映九霞
    歩曆艱難如酩酊
    廻杓指顧似婆裟
    星排宿酒投銀榼
    雲出酡顔破碧紗
    此日絳霄陪曲水
    來時疑是乘浮槎

       春風 何(いづ)れの処か花を開かざる
       万井(ばんせい) 皆な紅(くれなゐ)にして
                       九霞(きゆうか)に映ず
       暦を歩むに艱難(かんなん)するは 酩酊するが如し
       杓を廻らして指顧(しこ)するは婆裟(ばさ)に似たり
       星は宿酒(しゆくしゆ)を排して銀榼(ぎんかふ)を投じ
       雲は酡顔(だがん)を出だして碧紗(へきさ)を破る
       此の日 絳霄(こうしよう)曲水に陪し
       来たる時疑ふらくは是れ浮槎(いかだ)に乗るかと

    24姫林檎4241.jpg                         姫林檎 23.4.24 東京都清瀬市  

  春風はありとあらゆるところに花を咲かせ
  人里はすべて紅の花盛りであかね雲のように空に照り映えている
  行きなずむ春の日はさながら酒に酔ったひとのよう
  杓を廻らして方角を示す北斗七星は舞いを舞っているようだ
  星々は夜来の酒宴に連なって銀の酒樽を据え
  雲は青い空の彼方から酔った赤い顔を覗かせている
  花で紅に染まる空の下 曲水の宴に陪席し
  来てみると 故事に聞いたことがある
          筏に乗って天の川に到ったというような趣きであった

 寛平三年(891)三月三日、宇多天皇の曲水詩宴において、参加した詩人が皆「花時天似醉」という同じ題で競作するということがあった(『日本紀略』)。その時の島田忠臣の作。同宴の詩をまとめた集の序を菅原道真が書いた文が、連載第10回の文例に御紹介した「花時天似酔序」(墨場必携:漢詩 蘭亭序 花時天似酔序)である。
  
    24姫林檎4242.jpg                         姫林檎 23.4.24 東京都清瀬市

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