北川博邦先生

2018年4月10日

ご老公こと北川博邦先生のブログ「何期須傳」が始まりました。

はじめて先生にお目にかかったのは昭和49年なので、なんと今から44年前(!)。伏見冲敬先生の『角川書道大字典』が刊行され、縮小版『角川書道字典』の編集が始まり、私はちょうど大学院を卒業したので、お手伝い(実は漢字の部首を覚えるのに必死・泣)に字書編纂室へ通うようになったのです。

北川先生は、当時、伏見冲敬先生の片腕というべき存在で、時々差し入れを持って編纂室に見えました(アルバイトが10人以上)。お髭はありませんでしたが、すでに髪はかなり白かった。「シルバーシートの前に立ったら席を譲られた(憮然)」とはご本人の弁。まだ三十代だったのに・・・。

お話の内容はというと、ほぼ毎分混ざるのがダジャレ! ついていけないもの(ごめんなさい)もありましたが、レベルの高さは感動モノ。というより、そればっかり考えているんじゃないか、としか思えないくらい、膨大な数のダジャレが、あたかも機関銃のごとく飛び出すのです。

記念すべきブログ一回目もダジャレですね。

 

先生の著書はたくさんありますが、作品を発表した最初の個展は2010年、銀座の鳩居堂でした。この時の作品は、難しいけどわかると楽しい「ことば遊び」があちこちに見られ、ひと味ちがう(ほかの人にはできない)傑作満載でした。

ちょっとだけご紹介します。(前にもブログで書きましたが)

 

論語の「徳は孤ならず。必ず隣あり」をもじって、「徳利は孤ならず。必ず隣あり」。徳利は一本じゃ足りないから、必ず二本並べて飲むべし、というわけです。絵まであるし!

 

次は、印のなぞなぞ。

 

「不假(假は仮の旧字体)」とあります。

假は虚であり、偽であり、真の反。したがって不假は真。印鑑の文が真であるから、謎底は鑑真。唐代の名僧である。

解説はあるけど難しくて、なにがなんだかよくわかんない。ですよね。

つまり、「仮」は「真」の逆だから、「不仮」=「真」。これが印鑑になっているから、「鑑真」という意味よ、というわけです。

 

展覧会場から祝賀会会場へ移動中。白髪に白い髭、仙人がもつような杖。ご老公かっこいい! というより、目立つ!

真ん中は佐野光一先生。悲しいことに去年逝去されましたが、この時はお元気で楽しそうです。本をいっぱい作ってくださいました。

右は高橋蒼石先生。この方は白髪じゃないけど、ほら、上の方、光ってます。三十代からこうだった。

だから、ご老公と蒼石先生がいっしょだと「白鶴」を飲むのだ。「白」と「つる」。

 

最後に、珍しいご老公の佃煮レシピをご紹介しましょう。二回目の個展で展示されたものです。(味見用はないの? と言われていた)

 

長〜い折帖です。かいつまんで説明しましょうかね。(意訳です)

そもそも佃煮がいつ頃始まったわからないけど、江戸時代に佃島の漁師が、売れ残った、あるいは売り物にならないエビや小魚を塩で煮たのが始まりらしい。でもこれ、塩辛いばかりで賞味するほどのものじゃなかった。幕末維新のころ、鮒佐という者が醤油で煮ることを考案し、好評だった。

 

それを真似て作る者がでてきたが、大衆受けするなら甘くすりゃーいいだろう、というんで、砂糖みりん水飴ひいては蜂蜜まで入れて、甘露煮になっちゃった。

鮒佐は昔ながらの方法を守っているが、高価で、そうしょっちゅうは手が出ない。ならば自分で作ろうと試みた結果、ようやく味わうに足るものができたので、そのやり方を書くことにする。

まず何を使うかだけど、何はどこの産でなくてはならぬなどと勿体をつけるやつがいるが、そんな必要はない。そんなに味覚の優れたやつなどそうそういないから、そのへんの魚屋かスーパーで買ってくれば良い。ただし、国産に限るのであって、中国産、韓国産はまっぴらごめんである。

まずエビを煮る。小さめの芝海老か、春ならば桜えびを、十分な量の醤油にひたし、煮る。その際、生姜の絞り汁を少量加え、こまめにアクをすくうべし。弱火で15分煮、3〜4時間そのままつけておく。

残った煮汁に醤油を加え、小魚、シラスチリメンを煮る。エビの煮汁のおかげで風味が増す。

 

次は貝。貝といえばアサリだが、国産はなかなか手に入らないのでやめて、ベビーホタテを使う。真ん中に串を刺して穴をあけると真ん中まで醤油がしみわたる。生姜を絞るか、細かく刻んで入れるもよし。ホタテのひもは安いから、これを煮てもいいだろう。以上が第一類。

ごぼうやしいたけを煮る時は、そのまま醤油で煮てもおもしろくないから、まず穴子を煮る。その時は生姜の絞り汁を加えること。穴子の煮汁でごぼうとしいたけを煮る。

 

最近のごぼうはほとんどアクがないから、アク抜きの必要はない。穴子の煮汁は穴子、ごぼう、しいたけを煮るためだけに用いる。穴子は脂があるから、小魚用の煮汁と混ぜてはいけない。以上が第二類。

昆布をもどすには鰹だしパックなどを使って、通常の2〜3倍濃いだし汁を作り、これに昆布をつける。昆布は千切り、角切りにして、だし汁に醤油を足して煮る。昆布の煮汁はぬめりがあるので昆布専用とする。以上第三類。

佃煮にすべきものは他にもたくさんあるけど、まずはこんなところでよかろう。要するに、醤油で煮しめるのみで、酒のつまみに最適である。あまりにも塩辛いと思うなら、お茶漬けにしてもいいだろう。

 

とまあ、こんなところでしょうか。

ちなみに、ムー教授のお気に入りは穴子で、わたしはごぼうです。

最後に、ご老公の講義をお聞きになりたい方は、東京銀座の慶花堂さんへどうぞ。第四日曜日、15時〜17時です。こちらの一番下にありますよ。

Category :
書道