茨城県水戸に、創業195年のうなぎ屋さん、「中川楼」があります。
維新の志士や横山大観、小川芋銭、板谷波山らの文人墨客に愛され、舟橋聖一の小説にも描かれた老舗です。ここに天来の扁額があると知ったのはずいぶん前です。今回ようやく訪れることができました。雰囲気がありますね。
風格のある玄関に掲げられた天来の扁額です。お部屋にしっくりと溶け込みつつ、ゆったりと客人を迎えるような雰囲気が生まれています。書って、こうでなくちゃね。展覧会の壁面より、生活の場にあるのがほんとだと感じる瞬間です。
なにはともあれ、かんぱーい。(すみません) お酒は茨城の名酒「山桜桃」。金子卓義先生、いただきまーす。と、襖が開き、「ようこそいらっしゃいました」。女将さんです♡
さっそくですが、乾杯しましょうよ。というわけで、かんぱーい。なんでも、これが本当に比田井天来の書かどうか、心配だったそうです。絶対に天来ですっ。(孫が言うんだから信じてね) 写真が物語っているように(物語り過ぎ)、すっかり意気投合! いろんなお話に花が咲きました。今度はお仕事中でないときに飲みましょうよ。
なんでもこの6日後、天来記念館に行ってくださったそう。嬉しい! 書を愛するみなさん、中川楼へ行きましょうねっ♡
ではでは、お料理をレポートしましょう。こほん。
まずは前菜。決して華美ではなく、きりっとしていて、風格があります。さすが水戸の老舗! 何より美味しい(これが大切)。
お刺身です。マグロは赤身から中トロまで、三枚重なっています。つまやわさびも、多すぎず少なすぎず、気持ちがいいことこの上なし。何より美味しい(これが大切)。
あったかいお椀が出ると嬉しい。お出しがほんのり香ります。何より美味しい(これが大切)。
うなぎのキモはですねえ、わーん(泣く)、ごめんなさい。夢中で食べてしまったので、気がついたらこのありさま。ほんとは一人2本たっぷりあります。(お皿の上をとりつくろってみました) これってお酒にあいすぎです。(お酒の2本めに突入しないようにセーブするのがたいへん)
そして、いよいよメインのうな重。柔らかいけど柔らかすぎない、存在感がしっかりあって、もちろんかたくなくて、それはそれは美味しいのです。たれは少なめ。そして嬉しいのは
たれが足りない人のために、ちゃーんと用意してあるんです。山椒も極上です。
このお店は、女将さんもお姉さんたちも楽しそうに働いています。おもてなしの心が行き渡っているんですね。
甲寅といえば大正三年。比田井天来は日下部鳴鶴のもとで勉強しつつ、新しい筆法の研究に夢中だった時期です。中川楼はこの年、創業92年。すばらしい伝統を守りつつ、肩肘張らずに美味しいうなぎを食べられる名店にふさわしい、格調ある作品です。また、天来のこの時期の作品は少ないので、貴重な資料でもあります。
水戸駅からタクシーで10分ほど。年中無休(日曜休みと書いてあるサイトを信じないこと)。お部屋は大小の個室で、ゆっくりくつろげます。「また来ます」と固い約束をしました。みなさんもぜひぜひ、美味しいうなぎを食べに行ってくださいね。