2010年4月26日

森鴎外の書

森鴎外ss.jpg
新刊「漢字かな交じり書の名品」ができあがりました。
その中から順にご紹介して行きたいと思います。






森鴎外.jpg森鴎外は家族によく手紙を書きました。これは妻しげへの手紙に同封したもので、次女の杏奴に宛てたもの。時に鴎外は61歳、二ヶ月後に他界します。
長女の茉莉はこう書いています。

父は字が下手だった。それで父は考えて、独特の書体を工夫して生み出した。父の工夫して生み出した書体はその内段々によくなり、晩年に近づいて完成した頃の書体はすばらしいものだった。〈中略〉骨のような書体は、立派な書家の字より以上に、奇麗に、雅で、父の文章(創作、翻訳、両方の)にぴったりしていた。

本当に繊細で、愛情にあふれた書ですね。

かつての書は特別の教養をもつ人たちのものでしたから、漢詩や漢文を書くのは当たり前でした。しかし現代の私たちが書きたいのは、現代の日本語の書。とはいえ、古典がないので、レベルの高い作品を書くことは困難です。そこで企画したのが『漢字かな交じりの名品』です。とくに「文人編」は編者中野遵先生が二年をかけて調査し、「素人の書」という従来の常識を打ち破る名品が紹介されています。
現代の書家は書いた内容を「素材」と呼び、造形性を主体と考えがちですが、文人たちが残したのは「ことばを伝える書」。今一度、書の本質について考えたいと思います。
(今日はちょっとマジメ)

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