2009年7月24日

山枡信明テノールリサイタル 2009

ドイツで活動し、「聖なる輝きと天上の歌声に満たされたテノール」と、ドイツのラインネッカー新聞で評された山枡信明テノールリサイタルが、来る8月4日に開催されます。
去年のテーマは「海の歌」でした。





今年のテーマは「愛のうた」
山枡信明リサイタル.jpg裏面にはこんなふうに書いてあります。
今年のリサイタルのテーマは「愛」。よりすぐった愛の名歌の花束をみなさんに贈ります。いま恋している人、これから素敵な恋をしたい人、恋の想い出を胸にいだく人・・・。恋なんてどうでもいいからとにかく良い音楽が聴きたい人、みんな集まってください。音楽の形に昇華された愛が、あなたの胸にきっと熱いものをよび起こすことでしょう。

次は私の感想文、第二回目のコンサートのものです。

故郷への熱き想い 山枡信明テノールリサイタル

離れていた恋人と再会したように、恥じらいに満ちたひそやかなしらべから、その夜は始まった。曲目はシューマンの歌曲「詩人の恋」。
しらべはやがてひとすじのせせらぎに姿を変えた。せせらぎはスピードを増し、しぶきをあげながら木立の間を駆けぬける。青空を映し、さんざめく花々を愛で、軽快に走りつづける渓流は、やがて大河となって大海へと注がれる。
恥じらいは消え、湧きあがる歓喜が会場を満たしていった。山枡信明テノールリサイタルが始まったのだ。

のぶちゃん(山枡信明)は、私の従弟である。のぶちゃんはことばを知らない頃から、音に対して異常なまでに鋭敏な反応を示した。大学教授であった彼の父は、息子に音楽の才能があることを直感し、英才教育をほどこした。クラシック音楽のレコードを、かたっぱしから幼いのぶちゃんに聞かせたのだ。
大学院を卒業したのぶちゃんは、音楽家ではなく、父と同じ教育者の道を選んだが、教育界は厳しい状況にあった。悩みぬいたのぶちゃんは、音楽家としての新しい人生を選んだ。私たちの心配をよそに、のぶちゃんは一人でドイツへ渡った。
それから10年、帰国したのぶちゃんは、自信に満ち、一まわりも二まわりも大きく見えた。異国での孤独な体験によって、本当の自分を発見したのだと、私は思った。そして私たちが聞いたのは、切ないまでに心を込めた「さくら、さくら」だったのである。

翌年、2003年8月に開催されたのが、冒頭でご紹介した二度目のリサイタルである。のぶちゃんは、なつかしい故郷の人々を前に、自己を表現する歓びに満ちあふれていた。豊かな声量と暖かい声質、本場で鍛え上げた表現力、そして数々の経験を通して深めた精神のすべてが、一大ドラマを生みだしたのだ。それは、現実よりも現実的に、聴衆の心を満たしていった。
のぶちゃんは子どもの頃から、天性の表現者だった。次回は、日本の常識的な音楽家をあっと言わせるような、大胆な試みに挑んで欲しい。それこそが、才能と経験に恵まれたのぶちゃんの使命なのだから。

聴いてみたい方は、直接リサイタル会場へいらしてください。私もどこかにいるので、受付で聞いてくださいね。

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