2009年2月17日

梧竹の臨書

小さいファイル.jpg
来る22日に徳島県立文学書道館で予定している講演のデータができましたので、骨子をご紹介します。
タイトルは「梧竹と王羲之--臨書が拓いた新世界」です。
臨書と作品を年代順に並べるだけで、とっても興味深い結果が出ました。

梧竹の書というと、六朝風、あの個性的な造形を思い浮かべますね。
でも、あれは梧竹の全生涯を貫いているわけではありません。若い頃はどんな書を書いていたのでしょうか。

32歳 菅聖廟神門銘s.jpgこれは梧竹が32歳の時の書です。顔真卿のような、がっちりした楷書ですね。石碑にふさわしい、力強く読みやすい、堂々たる楷書です。

50歳代 臨蜀都帖と54歳作品.jpg左は50歳代の、王羲之蜀都帖の臨書です。右は同じ頃、54歳の作品ですが、よく似ていますね。
梧竹54歳というと、楊守敬が来日した年。梧竹はその前から中国の長崎領事、余元眉と交流し、中国風の書を書いていたそうです。
そして57歳から58歳にかけて、中国へ行きます。

57歳 字模王s.jpgこれは中国で書いた作品です。中国風の書にあこがれ、前とはまったく異なった書風になりました。王内史は王羲之のこと。心から王羲之を慕っていたのですね。

68歳鳩と65歳臨講堂帖.jpg
右は「王羲之十七帖」の中の「講堂帖」の臨書、65歳です。王羲之の筆意をとりながら、梧竹独特の造形になっています。
左は鳩の詩。日野先生の記事にあった、新境地開眼へのターニングポイントとなった作品です。リズミカルな表現の中で遊んでしまいそうです。

76歳臨十七帖 部分ss.jpgこれは、76歳の、王羲之十七帖を臨書した六曲一双屏風の部分です。65歳の臨書より、自由ですっきりした雰囲気になりました。なんだか、不自然な意気込みがだんだんとれてきているように感じます。
そして、85歳にすごいことになります。

85歳朱処仁帖s.jpg王羲之朱処仁帖の臨書です。
美しいでしょう?

王羲之を超えようとした強気な不自然さは消滅して、まるで王羲之と同じ精神世界へ入り、王羲之と楽しく談笑しているみたいです。

原本の骨格と臨書者の性情が一体となって、存在感あふれる造形世界へと昇華することが、最上の臨書だと思います。

梧竹は、中国にあこがれた時代を抜けて、日本的な情緒あふれる、清らかな造形を生み出しました。その根源が臨書です。
一所に留まることなく、臨書によって、常に新たな境地を拓き続けた生涯には、ほんとうに感動しました。

梧竹には、もう一つ特徴的な書風があります。それは明日ご紹介しましょう。

同じカテゴリの記事一覧