墨は百年経つと青くなる?
墨の微妙な色合いはとても魅力的ですよね。顔料などを入れて青くしている現代の墨は論外として、松煙墨の古墨の美しい色彩を愛する書家はとても多いと思います。
墨は年月が経つと青くなる。そう書いてある本はたくさんあります。でも、ちょっと待ってくださいね。
ビデオ「墨を極める」の1シーン。南谷コレクションの中から程君房作「百子図」を使って、貞政小登先生が作品を書いてくださいました。「いい墨だねえ」と絶賛してくださり、「この作品は撮影した後、ぼくに返してね」と念を押されました。
貞政先生お墨付きの明墨なら、数百年は経っているわけだけど、下敷きが透けてて青く見えるだけで、実際青くはないわなー。
さー、例の電子顕微鏡の登場です。松煙墨と油煙墨の違いは前にご紹介しましたね。今回はさらに古墨も見てみますよ。
まずはおさらい。粒子を10000倍に拡大します。左が松煙墨の大きい粒子で青い墨になり、右は油煙墨の小さい粒子で茶系の墨になります。では、古墨はどうでしょう。
粒子は小さいでしょう? 青くならないわけだ。
もう一つ、「乾隆冊子墨」という墨があります。これも顕微鏡で見てみましょう。
20000倍に拡大してあります。左が百子図、右が乾隆冊子墨。右の粒子、なんだかへんですね。大きい粒が混ざっています。これは年月が経ち、粒子どうしがくっついて大きい粒子になったのです。
これが「青墨化」現象、墨の色が青くなるんです。
「墨は百年経つと青くなる」のではなく、「年月が経って青くなる墨もある」が正解。まっこと不思議な世界だこと。