20歳の書 蘇東坡詩集の書き込み その1

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小城市立中林梧竹記念館で開催の梧竹展に、佐賀大学付属図書館蔵小城鍋島文庫の「増刊校正王状元集註分類東坡先生詩」が出陳された。



小城鍋島文庫はもと小城鍋島藩の内庫所に保管されていた蔵書や記録文書などで、現在は佐賀大学付属図書館蔵の貴重書となっている。「増刊校正王状元集註分 類東坡先生詩」は、王状元(十朋)が蘇東坡の詩をテーマ別に分類し100家の注釈を編集したもので全25巻。当該本は巻13を欠いでいる。

図1 蘇東坡詩集.jpg
図2 書き込み表紙.jpg
この本の状態はご覧のとおりで、たて28.5×よこ21㎝、表紙に見出し語が書かれている。見出し語は各巻の内容すべてを記したものではなく、1冊に1語だけとなっている。

巻1:紀行 巻2:述懐 巻3:宮殿 巻4:城郭 巻5:釈老 巻6:塔 巻7:雨雪 巻8:江河 巻9:池沼 巻10:燕飲下 巻11:書画下 巻12:花 (巻13:欠) 巻14:投贈 巻15:簡寄 巻16:懐旧 巻17:酬答中 巻18:酬答下 巻19:園林 巻20:恵貺 巻21:送別中 巻22:送別下 巻23:遊賞 巻24:題詠下 巻25:雑賦

文字は楷書で、巻によって大小がある。文字の書線は円筆系の立体性をそなえている。

図3 第16.jpg巻16の裏表紙に「馬」「中」「島」「城」「中林」「中林勇馬」などの書き込みがある。「勇馬」は梧竹の幼名で、書き込みが梧竹の筆であると確認される。さらに同じ巻16末葉の書き込みには「弘化丙午秋初閲。嘉永庚戌秋再閲。嘉永四辛亥初冬十日夜三閲。香雪齋中ニ記。三閲亦妙。」とあるので、梧竹はこの「蘇東坡詩集」を、①弘化3(1846)年20歳、②嘉永3(1850)年24歳、③嘉永4(1851)年25歳の3度読んだことがわかる。筆跡から推測すると、裏表紙の「中林勇馬」の姓名記入は20歳、末葉の「弘化丙午秋初閲。嘉永庚戌秋再閲。」までは24歳、のこり「嘉永四辛亥初冬十日三閲。香雪齋中ニ記。三閲亦妙。」は25歳の筆であろうと思われる。
 
この推測が正しければ、現存の年齢の特定可能な梧竹書跡中でもっとも若年のものとなる。現在知られる20歳代までの書跡を列記すると次のようである。 
(伝幼時の手習い 25枚(中島高麗男氏旧蔵)  小城市立中林梧竹記念館蔵)
20・24・25歳 「蘇東坡詩集」書き込み  佐賀大学付属図書館蔵   
23歳  「佳気満高堂」額  雪梁舎蔵(新潟市)
28歳  「須賀」楷書額  個人蔵(小城市)
29歳  乙宮神社燈籠「献燈」銘  乙宮神社蔵(小城市牛津町)
29歳    園田善左衛門夫妻墓碑銘  星巌寺墓地(小城市畑田) 
 
香雪齋は当時の梧竹の居室名かとも推測され、それが藩邸の中にあったのかなど探求の余地がある。年齢から考えても1戸前の居宅をもったのではあるまいと思われる。また師事した山内香雪に子がなくて、梧竹を養嗣子にと強く望んだという話があることを考え合わせると、梧竹が香雪宅に住み込みの内弟子であったかもしれないとの想像もうかんでくるが、確認のための資料は今のところ見当たらない。余談ながら、梧竹が師匠の養嗣子の話に辟易して逃げ出して箱根の関所で捕まったという話もある。

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